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押し込めた気持ち

「……ユキ?」 「ぁ……」  俺の方へ顔を向けていた睦月が不思議そうに見つめてくる。  誤魔化さないと。  そう思うのに、石でも詰められように言葉が出てこなかった。 「どうしたの?」 「……な、んでも……ない……」 「…………」  何とか絞り出した一言は声が掠れてしまい、睦月に届いたかはわからない。 「えっと……あ! そろそろ寝ないと初日の出の時間に起きられないぞ……! ほら、睦月も家、帰らないとな!」  なんとも言えない重苦しい空気に耐えられなくなって慌てて立ち上がった。  唖然とこちらを見つめる睦月に、いつも以上に取り繕った笑顔で笑いかけてから、テーブルに広げたままだった課題を片付け始める。 「ユキ、あの……」 「ほら、初日の出見るんだろ。寝坊したら見られないぞ」  何かを言おうとした睦月の言葉を遮って、集めた課題をいつも使う勉強机に置くために立ち上がる。  背中に視線を感じたが、いま振り返るとこの心にある身勝手な感情がバレてしまうような気がして、振り返ることが出来なかった。 「……じゃあ、一旦、家帰る。朝の五時に、玄関前に集合ってことで……」  僅かな間を置いて、睦月は一言そう零すと俺と同じように課題を集めて立ち上がった。 「……っ、睦月……!」  思わず呼び止めると、睦月はビクッと肩を震わせて緊張した面持ちでこちらへ顔を向ける。  呼び止めてから、何を言えばいいか、また言葉に詰まってしまった。 「……その、初日の出、楽しみだな」 苦し紛れに出た一言は、あまりに平凡で。 「……うん。ユキと見れるの、楽しみ。またあとでね」  睦月はいつもの柔らかい笑顔を咲かせてから部屋を出ていった。  その後ろ姿を見送りながら心にある気持ちを吐き出すように大きくため息をつく。  触れたい、なんて……言えるわけがないじゃないか。  睦月だって好きで触れ合えないわけじゃないのに、俺がそんなワガママを言うこと自体間違っているんだ。  そもそも、そんなことを言ってしまったら、睦月が傷つくことなんてわかりきっている。  だからこそ、言葉になんて、できない。  出来るわけがなかった。

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