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漂ふ孤独 2

「おはよう、雅。あけましておめでとう。それよりこんな早くに電話とかどうした?」 『いや、ほら元旦は行くっつってたじゃん? んで、十時って言ったけど、九時でも大丈夫か?』 「いや、俺の方は大丈夫だが……どうした?」 『あー……いや……』  言いにくそうに口籠る雅に、電話越しで首を傾げる。  僅かな息遣いだけが耳に届いて、俺はもう一度声をかけた。 「雅?」 『ユキと睦月に早く会いたいなぁって思ったから』 「…………」  小さく笑って「なんつってな〜」と付け足す雅の言葉に、俺はスマホを持つ手に力が籠もった。 「……そっか。とりあえず、時間変更で九時ってことだな」 『おう、急に悪いなー』 「いや、大丈夫。丁度睦月も隣にいるから伝えておくよ」 『へぇ? 年越し、一緒に過ごせたんだな。んじゃ、惚気話楽しみにしてるわー!』  そんなふうに揶揄ってくる雅に「アホか、もう切るぞ」とツッコミをいれてから電話を切った。  体を撫でつける冷たい風に大きく息を吐き出す。 「雅、なんて?」  そんな中で睦月の声が耳に届いて、はっと顔を上げた。 「あ、うん……。時間変更で九時に集合って言ってた」 「そっか。なら早く帰って、朝ごはん食べたりしなきゃね」  いつも通りに微笑む睦月は、立ち上がると、その場でぐっと伸びをして俺に背を向けた。  その後ろ姿が、とても寂しそうで。 「睦月……!」 「?」  呼び止めずには、いられなかった。  振り返った睦月は驚いた顔で俺を見つめて首を傾げる。 「……その……」  言いたいことはたくさんあるのに。  どんな風に言葉にしたら睦月に伝わってくれるのかわからない。  どんなに言い訳しても、触れたいという気持ちは嘘にはできない。  だけど……。  どう言葉にしたらいいかわからなくても、これだけは言わなければ。  そうじゃないと、いつか睦月がどこかにいなくなってしまう。  俺の手の届かないところにいってしまうような、そんな気がしたから。

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