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緊張する時間

 俺の問いかけにも答えることなく、白い紙でお金を包むと箱の蓋をしめた。  そのまま紙袋に入れて、それを俺の方へ滑らせてくる。 「え……」 「二人のものだから、俺も出す」 「そ、そんなの気にするなって……っ」 「二人で出し合うから、意味がある」  真剣な顔でそんなことを言われてしまうと、言い返す言葉すらなくなってしまう。  こういうところは昔から律儀なやつで、一度こうだと決めたことは絶対に譲らない。  前にカフェの代金を誰が支払うかという話のときにも、自分が払うと言って聞かなかった。  こういう頑固なところが好きでもあるけど、たまに困ったりするのだ。 「……わかった。ちゃんと貰うよ」  睦月がお金を入れた箱を手に取って、鞄の中に突っ込んだ。 「それより、雅、遅いね?」 「あー、確かに」  言われてみれば選ぶ時間も結構かかった気がするのに、未だ雅の姿は境内に見当たらない。  一体、どこまで飲み物を買いに行ったのか。 「……二人きり、だね」 「あ……うん」  まだ境内に人はまばらにいるとはいえ、このベンチ自体が人混みから離れている。  ということは基本的に誰にも邪魔されない状況、ということだ。 「…………」  え? 何を話せばいいんだ?  意識してしまうと頭の中が真っ白になってしまって、話題が思いつかない。 「……えっと」  何か、言わなければ。  そう思って焦りから口を開いた。 「「あの……っ!」」  は、いいが、俺と睦月の声がタイミングよく重なってしまう。

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