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伝えたいこと
雅が食べ終わるのを待つ間、適当にスマホを弄っていると急に睦月が立ち上がった。
「どした?」
「あの……ちょっと、用事済ませに、行ってくる」
「……うん?」
用事?
今日はこれ以上、やらなきゃいけないことなどあっただろうか。
というか、どこかいくなら三人で向かった方がいいんじゃ?
「あー、そっかそっか。いってらー」
「え?」
雅は意味が分かっているのか、紙ナプキンで口元を拭きながら、ひらひらと睦月に手を振る。
俺はペコリと頭を下げて、慌てて店の奥へ走っていく後ろ姿を呆然としながら見送った。
引き止める間もなく、睦月の姿は奥にある通路を曲がって見えなくなる。
「お手洗いだよ、お手洗い」
ぼけっとしたまま意味がわかっていない俺に対して、雅が何食わぬ顔でそう横から教えてくれる。
「あー……なるほど」
まぁ、確かに、睦月みたいなやつだと暗喩したくもなるのか。
俺なら素直にお手洗い行ってくると言いそうだが、まぁ、食事中ということもあるし、気を使ったのかもしれない。
「んで? もうそろそろユキの話したいこと、聞いてもいいか?」
「え? あ……」
そういえば、そのことをすっかり忘れていた。
指摘されなければ今日は言わなかったかもしれない。
「…………」
「といっても二人のこと見てたら、大体言いたいことはなにかくらいわかるけどなー」
明るい声でそういう雅の顔を見ることができず、顔を俯かせる。
「……ごめん」
「ん? なんで謝るんだよ?」
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