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平穏の影に
「雅、なんか今日テンション低くね?」
「んなことねーって」
「ふーん? そう? ならいいけどさー」
話しかけてきた新田が聞いてきたにも関わらず興味なさげにそう返してくる。
興味ねーなら聞くなよ……とは思うが、それは心の中に押し留めておく。
「おーい、新田ぁ! これ一緒にしようぜ」
遠くの方で守谷が呼んでいる声に「へーい」と抑揚のない返事をして歩いていく新田の後ろ姿を見送りながら、俺は辺りを見渡した。
「……?」
大量に並ぶゲーム機器の向こう側で何人かの大柄な男が屯 しているのが見えて、何故か気になってしまい、目を細めてそちらを見た。
何故、気になってしまったのか。
もしかすると数日前のあれが原因なのかもしれない。
抑えめではあるが、少し離れたこの場所まで聞こえるような小汚い笑い声。
かと思ったら、ヒソヒソと小声で会話しながら、時々頷くような仕草が見えた。
「……ここは親父のたまり場じゃねえっての」
毒を吐きながらも、どうしても内容が気になってしまい、俺は向こう側でクレーンゲームで遊んでいる守屋と新田をチラリと盗み見た。
しばらくは夢中で話しかけてくることはないだろうと踏んで、屯している連中にこっそりと近づくため物陰に隠れながら移動する。
全員の顔が認識できる距離まで来ると、輪の中心にどっかりと腰を下ろした男がいるのがチラリと見えた。
その瞬間、ドクン――と心臓が大きく脈打つ。
他の男の体に隠れて顔は見えない。
なのに、何故か、嫌な予感がした。
「…………ふ、ぅ」
乱れそうになる息を殺しながら、もう少しだけ近くまで寄ってみようと、アーケードゲームが並ぶ所まで更に移動して、そこに身を隠す。
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