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気持ちに言い聞かせながら
数日前の、あれ。初詣の日。
コンビニで支払いをしている時に、店外から大きな笑い声が聞こえて、そちらに目を向けたとき、どこかで見たことのある横顔が視界に映って、慌てて後を追いかけたが見失ってしまったのだ。
その顔が、昔ユキから見せてもらった睦月の家族の写真の中に映る男に、なんとなく似ていたような気がした。
はっきりと見えたわけじゃないので、もしかしたら見間違えかもしれない。
ただ、妙に胸騒ぎがしてしまい、ユキに話してみようかと思ったのだけど……。
よくよく話そうと記憶を辿ってみると、大してはっきり思い出せなくて、そんなチラリと見えたくらいの情報でユキと睦月を不安にさせるのも戸惑われた。
(もしかすると、本当に関係ない人かもしれないし……)
似たような顔の人間なんて幾らでもいる。
一人ひとり疑ってかかっていたら失礼だろう。
「んじゃ、雅も気をつけて帰れよ」
「おー、またな」
こちらに手を上げて、さっさと歩いて行ってしまう新田の後ろ姿を見送ってから、俺も帰路を歩き出した。
大丈夫。
この胸騒ぎもきっと気のせい。
さっき聞いた話だって、別に俺の人生に何かあるわけでもない。
かと言って、俺の親しい人に関係のあるような話でもなかった。
サツとかどこか物騒な単語が出てきていたが、 どうせ一般市民の俺に何か出来ることなんてないんだから。
そう、大丈夫。
きっと、大丈夫。
俺は自分に言い聞かせるように、何度も心の中でそう呟いていた。
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