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雅の異変 2
「睦月、本人からなんか聞いてないか?」
「ううん。わからない」
一応期待を込めて聞いてみたが、やっぱり睦月も知らなかったらしい。
どうしたものかと悩んでいる間にも、こちらを振り返ることなく歩いて行く雅の後ろ姿に気づいて、慌てて追いかけた。
「雅、先々行くなって!」
「あ、悪い。ぼーっとしてた」
「ぼーっとしてたじゃないだろ。あと、野球してるやつらもいるからもうちょい隅の方歩こうぜ」
心ここにあらずな雅の腕を引っ張ってグラウンドの隅に移動する。
睦月も階段から駆け下りてきて呼吸を整えた。
「なぁ、雅。やっぱキャッチボールはやめとこう。お前ずっとぼんやりしてるし、流石に危ない」
「……悪い」
重症だな。
さっきから謝ってばかりで、いつもの明るさが微塵も感じられなかった。
雅がこんな調子だとどうすればいいのかわからなくなる。
「雅、もう今日は帰ろう。本調子じゃないし、無理に遊ぶ必要もないと思う」
「…………あのさ」
地面をじっと見つめていた雅がゆっくり顔を上げた。
その新緑色の瞳が俺を見つめて迷うように揺れる。
「……最近、なんか変わったことなかったか?」
「え? 変わったこと?」
変わったことがなかったかと聞かれると、今日のお前がいつもと違うという苦言しか思い浮かばない。
それ以外では睦月も俺も特に何事もなく、毎日が幸せ一色で楽しく日々が過ぎている。
「特に思い当たることはないな」
「…………そっか。ならいいや! 変なこと聞いて悪いな〜!」
俺の返事にほっとした表情で、いつもの調子を取り戻す雅に眉をしかめた。
本当に、どうしたと言うのだろうか?
情緒が安定していない雅の態度が、ただただ気になるばかりだった。
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