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優しい日常

 あれ、流石にこの返しは間違えたか……?  でも、声聞きたいって思ってたのは事実だし……。 『……ユキ、たらしだよね』 「はぁ?!」  とんでもない言葉が睦月から発せられて、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。  たらしって……どの辺が……?  ていうか―― 「睦月にしかこんなこと言わねーよ……」 『……たらしじゃなくて、天然たらしだった』  何も変わってねぇ……。  クスクスと小さく笑う声に俺も笑みが零れた。 『あ、そうだ。あのね、ユキ。明後日、病院行ってくるね』 「あー……そっか。一ヶ月に一回だっけ?」  睦月の言う病院。  今の病気になってからずっとお世話になっている精神科だ。  先生がとても優しく親身になって寄り添ってくれる人で、ここまで睦月が良くなったのもその先生のおかげでもあったりする。 「迎え行こうか?」 『ううん。いつもより、少し遅くなると思う。ケアマネージャーの人と、お話してくるのと、血液検査してくるから』 「そっか。わかった。あんまり遅くなるなら言えよ?」  大体は午後からの診察なので、帰りが遅いと暗い夜道を一人で歩くことになる。  それはそれで少し心配だった。 『うん。ユキは雅の話、聞いてあげてほしいな』  今日の雅の様子に、睦月も何か思うところがあったのだろう。  確かに俺もちゃんと話を聞きたいとは思うけれど、無理やり聞いてもいいものなのか悩みどころだ。  誰でも話したくないことはあるだろうし。

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