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不穏な影

「そうだな。話してくれるかわからないけど、聞いてみるよ。実は俺も明後日、ちょっと出かける用事あって遅くなるかもしれないんだよな」  両親が少しだけこちらに戻ってこれるらしく、明後日は二人に会う予定でいるのだ。  やっぱり一年に一度くらい会いたいということで、わざわざ時間を作ってくれたらしい。 『そっか。ユキも、大変だね』 「まぁ、俺のわがままで今年はこっちにいたから、せっかく時間作ってくれたし会ってくるよ」 『うん、気をつけてね。それじゃあ、おやすみ、ユキ』 「あぁ、おやすみ、睦月」  お互いに「おやすみ」と言い合って電話を切る。  通話が終わったスマホの画面を見つめながら、そんな当たり前の幸せに自然と笑みが零れた。  明日も良い一日になるといいな。  風呂から上がって話していたせいか、喉が渇いてしまって、何か飲もうと部屋から出て一階に向かう。  冷蔵庫の中から緑茶を取り出し、コップに注いだ。  それをちまちま喉に流し込みながら、窓に近づいてカーテンをずらしてから、漆黒の空を見上げる。  キラキラと輝く星の海と優しく夜を照らす月がとてもきれいだった。 「ん……?」  ふと睦月の家の方に目をやると、何かの影が動いたような気がした。  夜に紛れるようにコソコソと移動するそれに目を凝らすと、ガタイの良い体つきの男が睦月の家をじっと見つめていた。 (誰だ……?)  こんな夜遅くにチャイムも鳴らさずに人の家を見ているなんて怪しすぎる。  何か胸騒ぎを感じて、俺はコップを机に置くと、急いで玄関に走った。

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