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砂上の楼閣

 そのままサンダルを足に引っ掛けて、玄関の扉をなるべく音を立てないようにゆっくり開ける。  顔だけ出して辺りを見渡してみるが、男の姿はもうそこからいなくなっていた。 「なんだったんだ?」  たまたま通りかかって見上げていただけだろうか?  でも、他人の家だぞ? そんなやついるか?  ドクンドクンと心臓が騒ぐ。  嫌な予感が胸をよぎる。  なぜ、こんなにも不安になるのだろうか?  “……最近、なんか変わったことなかったか?”  ふいに雅に聞かれた一言が頭の中を過ぎった。 「……いや、考えすぎだろ」  あたまから人を疑うのも良くない。  きっとたまたま何か気になって見ていただけだ。  暗闇に紛れて顔は見えなかったが、あんなガタイの良い男の知り合いなんていない。  雅が変なことを聞いてきて、過敏になっているのかもしれないな。 「ふぅ……今日はちょっと疲れたもんな。もう寝よう」  玄関のドアを閉めて鍵をかける。  そのまま二階に上がると、チラリと睦月の部屋の方を見た。  もう睦月は寝ただろうか。  怖い夢など見ずにゆっくり眠れるといいな。  そう願いながら、部屋の電気を消して布団の中に潜り込む。 「おやすみ、睦月」  ゆっくり降りてくる瞼の裏で睦月の笑顔が浮かぶ。  優しくて、繊細で、頑張り屋な俺の大好きな人。  明日も明後日も、睦月が笑っていられますように。

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