130 / 166
砂上の楼閣
そのままサンダルを足に引っ掛けて、玄関の扉をなるべく音を立てないようにゆっくり開ける。
顔だけ出して辺りを見渡してみるが、男の姿はもうそこからいなくなっていた。
「なんだったんだ?」
たまたま通りかかって見上げていただけだろうか?
でも、他人の家だぞ? そんなやついるか?
ドクンドクンと心臓が騒ぐ。
嫌な予感が胸をよぎる。
なぜ、こんなにも不安になるのだろうか?
“……最近、なんか変わったことなかったか?”
ふいに雅に聞かれた一言が頭の中を過ぎった。
「……いや、考えすぎだろ」
あたまから人を疑うのも良くない。
きっとたまたま何か気になって見ていただけだ。
暗闇に紛れて顔は見えなかったが、あんなガタイの良い男の知り合いなんていない。
雅が変なことを聞いてきて、過敏になっているのかもしれないな。
「ふぅ……今日はちょっと疲れたもんな。もう寝よう」
玄関のドアを閉めて鍵をかける。
そのまま二階に上がると、チラリと睦月の部屋の方を見た。
もう睦月は寝ただろうか。
怖い夢など見ずにゆっくり眠れるといいな。
そう願いながら、部屋の電気を消して布団の中に潜り込む。
「おやすみ、睦月」
ゆっくり降りてくる瞼の裏で睦月の笑顔が浮かぶ。
優しくて、繊細で、頑張り屋な俺の大好きな人。
明日も明後日も、睦月が笑っていられますように。
ともだちにシェアしよう!