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恵まれた環境
次の日は特に何事もなく、平穏に時間が過ぎていった。
いつも通り睦月と過ごして、一日が終わる。
昨日見たような男の影は一度も見ることはなく、ほっと安堵に胸を撫で下ろした。
雅が変なことを聞いてきたせいで、とんだ心配をしてしまったじゃないか。
「明日は母さんたちに会うし、少しは親孝行してこないとなぁ」
普段、電話で会話するくらいで何か両親に対してこれといった親孝行をしたことがない。
生活費や学費も毎月口座に振り込まれている両親からのお金でやり繰りしている。
それに申し訳なくなるときもあってバイトしようと相談したら、勉強に集中しろと怒られてしまった。
大人になって社会に出てから幾らでも恩返ししたらいいと言われてしまうと、俺からは何も言えなくなってしまい、仕方なく今は勉強に専念している。
「俺って、ホント恵まれてるんだろうな……」
滅多と会えないとはいえ、両親から気にかけてもらって、愛されている。
そう思うと、俺とは真逆に両親からひどい仕打ちを受けてきた睦月に対して、ものすごく申し訳なくなってしまうのだ。
俺が当たり前だと思っているものは、睦月にとっては一度も味わうことのなかった無償の愛だ。
当たり前などではない。
恵まれた環境こそ、もっとも大切にしていかなければいけないもので、そこに胡座をかいていいわけではないのだ。
「……睦月が与えてこられなかった愛を、俺が与えてあげられるといいんだけど……」
どっちにしても、明日は少しでも両親に親孝行してこよう。
鞄の中に必要なものを突っ込んで、スマホを手に取る。
メッセージアプリを開くと睦月の名前をタップした。
そのままキーボードをスワイプして文字を打つ。
それを睦月に送ってから部屋の電気を消した。
明後日は、もう学校だ。
長く感じた冬休みだったけれど、今までで一番楽しかったように思う。
きっと睦月と過ごせたおかげ。
明日帰ったら、睦月と電話ででもいいから話せるといいな、と思いながら、俺は深い眠りに落ちた。
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