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不穏な言葉

 どれくらいそうしていただろうか。  変化があったのはそれから一時間くらいしてからだった。 「あ……あいつら……」  俺は急いで支払いを済ませて店を飛び出す。  駅前の隅の方に大柄な男が四人集まって、中心にいる栗色の髪をした男に何やら封筒を手渡していた。  俺は近くの木の影に身を隠すと、そちらを覗き込んでからスマホを起動して写真を撮った。  念のための保険用だ。盗撮、ではあるが仕方ない。  ちゃんと撮れているのを確認してからポケットの中にスマホを突っ込む。 そんな俺の行動など気づいていない男たちは、ニヤつきながら中心の男に話しかけた。 「これで足りるかいね?」 「おう、毎度あり」 「ホント、こんだけでいいの? これでヤリ放題ってなんか裏ありそうでこえーわ」 「ははは、ツキちゃんに限ってそれはねーだろー!」  ゲラゲラとバカ笑いする男達とは別に、栗色の髪の男が閉じていた目を開いて口元に人差し指を当てた。  琥珀色の瞳が鋭く細められる。 「あんまここで騒いでっと目立つぞ。今回はサツにバレるかも知んねぇから安くしといただけだ」 「でも、騒がれなきゃサツもクソもねーしな」 「だな。そこは俺らだし大丈夫っしょ」  ニタニタと口元を歪めて笑いながら、一人の男がタバコに火をつける。 「まぁ、どっちにしても触れたら暴れんだろ? だったら用心するに越したことねーしな」 (……え?)  男のその一言に、頭の中が真っ白になった。  触れたら、暴れる?  何度もリピートされる言葉に、同時に思い浮かんだのは。  俺が初めて本気で好きになったやつの隣にいつもいる、気弱なやつの姿だった。 (いや、でも……睦月のことかなんてわかんねぇだろ……)

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