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はやる気持ちを押えて
そう思うのに、中心にいる男から垣間見える見覚えのある面影が不安を倍増させていく。
心臓がドクドクと早鐘を打ち、唇が震えた。
そんなわけない。
だって、睦月の父親は捕まったって聞いたんだぞ?
なら、こんなところにいるはずがないじゃないか。
「とりあえず、もうちっと人気のないとこ移動しようぜ。最終確認しねーとな」
「テツ、車持ってこい」
「うっす」
テツと呼ばれた男が駐車場に止めてあった車に乗り込んで、近くまで移動させる。
他の男たちも後部座席のドアを開いて中に乗り込むと、青い車が走り出した。
「……ぁ」
呆然としたまま俺はその場から動けず立ち尽くす。
関わらない方がいい、と思うのに。
俺の手はポケットに入れているスマホにゆっくりと伸びて、震える指で画面を操作した。
連絡先にある「霜月 雪」という名前をタップして電話をかける。
無機質に鳴り響くコール音がやたらとうるさく感じた。
ユキ……頼むから出てくれ。
そう願いながらも、10コールほどしたあと『ただいま電話に出ることが出来ません。ピ-ッと言う発信音の後に、お名前とご用件をお話し下さい』というアナウンスが流れる。
「…………ユキ……」
もう一度電話をかけ直そうとして、思いとどまった。
そうだ。
確かユキは今日、両親と会ってるって言ってた。
駅前で別れるってメッセージに書かれてたから、ここで待っていれば会えるはず。
こんな不確かなことで何度も電話をかけるよりも、ユキに直接いろいろと確認してみればいい。
そう自分に言い聞かせて、俺は最初に入ったカフェに戻ることにした。
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