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雅に会いに
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、雪。また夏にね」
夕方の駅のホームで、そろそろ帰るという母さんと父さんを見送る。
「あぁ、来年は睦月も連れて、母さんたちの方に行くよ」
「うん。待ってるよ、雪。睦月くんを連れて今度は東京の美味しいお店、一緒に食べに行こう」
ポンポンと大きな手で俺の頭を撫でてくる父さんに頷いてから、隣にいる母さんに笑いかけた。
「雪にまた一年も会えなくなるの、お母さん寂しい。でも、お仕事しなくちゃいけないしね。大学は睦月くんとこっちに進学したらどうかしら? いいところたくさんあるし。二人の学費なら母さんたちに任せればいいんだから」
「いや、流石にそれは……。睦月には睦月の進路があるだろうし」
「まぁ、考えておくって感じで。ね?」
「わかった」
睦月が進学するのか就職するのかはわからないけれど、母さんたちからそういう話が出てたということだけでも、話しておいてもいいかもしれない。
「それじゃあ、そろそろ行くわね、雪」
母さんは最後に俺の体をぎゅっと抱きしめてから、ホームに止まっている電車へ歩き出した。
中に乗り込んで暫くして窓際の席に座ると、こちらに手を振ってくる。
ガヤガヤと人が入り乱れるホームにアナウンスが流れて、電車が動き出した。
少しずつ遠くなっていくその姿を見えなくなるまで見送ってから、俺は駅のホームを離れて階段に向かった。
「……さて、雅に連絡、入れてみるか」
ちょっと疲れてはいるが、雅の様子も気になるのは確かだ。
少しくらいなら話せるだろうか?
駅内から出るとふわふわと雪が舞い落ちている。
手のひらで受け止めたら、じわりと解けていく姿に少し目を細めて吐息を吐き出した。
「……寒いな。睦月はもう終わったかな?」
ひとまず今は、雅が先だ。
そう思ってスマホを取り出した矢先。
「ユキ……!」
後ろから聞き慣れた声が耳に届いて、顔を上げて振り返った。
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