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忍び寄る悪意 3

 だけど、それが一番の失敗だった。  草藪の中に入った瞬間、隠れていたのか、もう一人男が姿を現して、その突然の事態に俺はその男に激突してしまう。 「あ"ぅッ!!」  突き飛ばされた体は地面に転がって、恐怖にガタガタと震え出した。 「あ、ああぁっ、ひっ、やっ、あ"ぁぁ!」  涙が溢れて視界が滲む。  逃げなければ、と思うのに、体はいうことをきかず、過呼吸に陥ってしまう。  その場で縮まりながら髪を掴んでガタガタと震えた。  そんな俺の体に突然、強い衝撃と激痛がはしって、地面に転げる。  蹴り飛ばされたのだと理解するのに、数刻の時間がかかった。 「い"ッ……ぁっ……ゲホッ…はっ……あ"、ぅ……」  上手く紡げない呼吸と一緒に激痛が体中を襲い、目の前の景色がグラつく。 「おら、立て! 寝てんじゃねぇぞ!」 「ひぃっ! やめ――んぐぅっ?!」  とにかく叫ぼうと声をあげようとして、その口が塞がれて声が紡げなくなった。  頭の中は真っ白になり、体が逃げようと無意識に暴れる。  怖い、怖い、怖い、怖い――!  ユキ、ユキ! 助けて!!!  声にならない声で必死に愛しい人を呼ぶ。 暴れまくる俺に痺れを切らした男の一人が容赦なく拳を腹に叩きつけてきたことで、脳内が真っ黒に染まった。 「ゔぐぅッ!? ゔ、ぅ……」  その衝撃に、俺の意識が少しずつ遠のいていく。  痛みから、恐怖から、逃げるように。 (…………ユ、キ……)  真っ暗闇にのみ込まれる視界の奥に、優しいユキの笑顔が浮かんだ。  ユキ――  助けて……。  ――たすけて。

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