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父親
ここは、どこだろう。
いたい、さむい。
それと同時に体中を何かが這う感触がして、俺は沈んでいた意識を暗闇の中から引き上げた。
「あれ……?」
重い瞼を開けた先に見えたのは、見慣れた天井。自分の部屋だ。
優しい暖色の照明が部屋の中をぼんやりと照らしていて、ほっと安心感を与える。
そっか。そうだよね。やっぱりあれは悪い夢だったんだ。
今日は、病院があるんだっけ?
準備、しないと……。
そう思い、体を起こそうとして、違和感に気づく。
「え…………?」
縄で縛りあげられた腕がベッドの両サイドのパイプに結び付けられ、身動きが取れなくなっていた。
自分の体を見下ろすと一糸纏わぬ姿で寝転がされており、あまりの恥ずかしさに膝を折って必死に身を縮める。
「おはよう、睦月くん」
「…………ひっ……」
ぬっと眼前に先程の夢で見た……いや、病院からの帰り道で見た男の顔が視界いっぱいに広がって、喉から小さな悲鳴が上がった。
存在ごと拒絶するように体が震え出して、呼吸が浅くなっていく。
「怖がってるじゃないか。ほら、ちょっと変われ」
「ツキさんの方が怖がるやろ〜!!」
ゲラゲラと下卑た笑い声を上げる男たちと入れ替わりに、今度は見知った顔が目の前に現れる。
「ぁ…………」
見知った、なんてものじゃない。
二度と会うことなんてないと思っていた。
二度とその顔を見ることなんて、あり得ないと思っていたその人が、目の前にいた。
「お……とう……さん……」
「久しぶりだなぁ、睦月。相変わらず母親に似たキレイな顔してるのを見ると……ホントにムカつくわ」
その声を聞いた瞬間、頭の中に幼い頃の記憶がフラッシュバックする。
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