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反撃 2
声を上げたのも束の間。
男は俺の上に跨がると、懐からもう一本ナイフを取り出して、床についていた手に容赦なく振り下ろした。
「あ"あ"ぁぁあッ!!!」
熱を孕んだ強烈な痛みに、自分のものとは思えない叫びが口から漏れ出る。
「ゔぁ…ッ! ひッ…、ゔぅ……!」
涙で滲む視界の中で自分の上に跨った男が、歪な笑みを作ったことだけはわかった。
嫌な音を立てて引き抜かれたナイフが、今度は右肩に振り下ろされて、意識が飛ぶような激しい痛みが肩を襲う。
――やばい。
そう思っても体は動いてくれず、ガタガタと痙攣を繰り返した。
朦朧とする意識の中、必死に床を指で引っ掻く。
――いやだ。死にたくない。
そう願っても、再度、腹に振り下ろされたナイフが体の肉を抉っていく。
痛い、痛い、いたい。
このまま俺は、死んでしまうのだろうか。
ユキに、会うことすら叶わず。
触れることも、出来ず。
”……また来年も一緒に見に来ようか”
――ユキ……。
“うん、約束”
ユキと交わした言葉が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
絡められなかった小指。
それでも、全てを包み込むように微笑んでくれた優しい人。
不安で不安で堪らなくて漏らした弱音も、全部受け止めて、俺のことを受け入れてくれたひと。
ユキ――
床をかいていた指先にコツンと何かが触れた。
それが何かを理解した瞬間、最後の力を振り絞って手で掴み取ると、痛みに耐えながら手にしたナイフの切っ先を振り切った。
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