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君に、触れる。

「……、ごほっ……」  真っ赤に染まった体は仰向けに倒れた姿勢のまま、胸が浅く呼吸を繰り返していた。 「睦月っ……!!」  俺は慌てて睦月に駆け寄る。  そのそばに倒れ込んでいた男の顔を見て、一瞬息が止まりそうになった。  首からおびただしい血を流した状態で息絶えているそいつは、見間違いじゃなければ睦月の父親だ。  いや、見間違うはずがない。  俺にとっても、忘れたくても忘れられない、睦月の人生をめちゃくちゃにした相手なのだから。 「……ユキ」 「睦月……!」  弱々しい声で俺の名前を呼ぶ睦月のそばに膝をつき、視線を落とすと、その凄惨な状態に思わず目を見張った。  さらされた肌にはいくつも刺された痕跡があり、傷口から流れる血がその深さを物語っている。  一糸纏わぬ体にも打撲の跡が幾つもあり、べっとりとこびりつくような液体が全身を汚していた。  それだけで何があったのかすぐにわかる。  過去に散々、痛ぶられ続けてきたのに、また――  また睦月は昔と同じ恐怖を、味わったのか……?  あまりの理不尽さに、頭に血が上りそうだった。 「ユキ……よか、た……かお、みれて」 「……っ、睦月……」  こちらに伸ばされた手を掴もうとして、思い留まる。  今まで触れてこられなかったことで、触れてしまってもいいのかと迷いが生じた。 「ユキ……ふれ、て……ほしい、な……」 「……っ、睦月……むつき、ごめん……っ」  差し伸べられた手を暫く見つめてから、俺は、優しくその手を握りしめた。 「……やっと、触れられた、ね」 「……っ、ふ……ぅ……っ」  久しぶりにこうして触れられたのに、あまりにも弱々しい手の力に、俺はたまらず涙が零れ落ちる。 「ユキの手、あったかい……」

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