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消えるぬくもり
そんなささやかな願いに、俺は目を見開いた。
こんなときでも、睦月は俺のことを求めてくれる。
それを、喜べばいいのか悲しめばいいのかわからない。
それでも――
「俺も睦月と、キス、したい……」
「う、ん……」
そっと睦月の首の後ろに腕を回して、上半身を抱き起こしてやると、俺を見上げる睦月の頬が柔くほころぶ。
「……ずっと、あり、がとね……さきに、いくね……。ユキのこと、まっ、てる……から……」
その言葉の意味を理解して、俺の中で途切れかけていた思いが、優しく揺れた。
「ユキ……また、ね……」
見慣れた睦月の琥珀の瞳がそっと閉じられる。
それを合図に俺は――
「……睦月」
初めて、睦月の唇と自分の唇を――触れ合わせた。
血の味がする口づけは、どこまでも優しくて、柔らかくて、温かくて。
――そして、胸が苦しくなるほど、切なかった。
そのまま手に持っていたナイフをもう一度突き立てると、皮膚を貫き、胸に食い込ませていく。
手に感じる肉を抉る感触が、血の臭いが。
俺の中にある“大切な何か”を壊していく。
まるで、そんなものは最初からなかったかのように。
まるで、全部、夢だったかのように。
口から血が吐き出されても、俺は重ねた唇を離さなかった。
突き立てたナイフを引き抜いたあと、俺の服を握りしめる細い手を優しく掬いとって握り返した。
睦月の感触を感じながら、頬を伝い落ちる涙を感じながら。
握りしめていた小さく柔らかな手から力が抜けて、その体が呼吸をやめるまで、ずっとそうしていた――
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