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失った青

「…………」  どれくらい時間が経ったのかなんて、分からなかった。  腕の中で眠る睦月を未だ離すことが出来ず、俺は独り、ぼんやりとそこに座り込んでいた。 「…………いま、何時だっけ」  そんなこと、たいして気になっているわけじゃないのに。  真っ先に出た言葉はそんな平凡なものだった。  それと同時に言葉が漏れた瞬間に、目元からやっと止まった涙がまたボロボロと溢れ出す。  堰を切ったように零れ落ちる雫が、物言わぬ睦月の頬を濡らした。  もう二度と声を聞くことも出来ない。  その笑顔を見ることすら許されない。  二度と、笑い合うことも、叶わない。  それが、まるでどこか遠い現実のようで、俺はただ呆然としたまま涙を流した。  記憶を手繰り寄せるたびに思い出す睦月の表情や仕草、一緒に過ごした日常が、何度も何度も頭の中でリフレインする。  不器用なのに頑張り屋で、笑顔が可愛くて、実はちょっと頑固で、それなのに寂しがりでぬいぐるみが大好きで。  思い出せば思い出すほど、その思い出の一つ一つが、セピア色に染まっていく。  どうして。  どうして、睦月がこんな目に合わないといけないのだろう。  せっかく声を発することが出来たのに。  窓越しでも触れ合うことが出来たのに。  どうして、現実はこんなにも冷たくて、残酷なんだろう。  夢で、あればよかったのに。  ただの悪夢なら目覚めたら睦月が生きているのに。  睦月が笑ってくれるのに。 「……っ、ふ……、ぅ……っ」  口から零れる嗚咽が、痛む喉が、頬を伝う涙が。  くるしくて、くるしくてたまらない。  鼻につく血の匂いが、手に残る大切な人を殺めた感触が、夢ではないことを嫌というほど俺に突きつけてきていた。  “しあわせの、あおい、とり”  不意に、睦月が呟いた言葉が頭の中に木霊して、嘲笑が漏れる。 「なんだそれ……。どこにいるっていうんだよ……そんなもの……。……いるっていうなら、睦月を返してくれよ……っ!!」  そういくら願っても、そんな現実は訪れなくて。  ――幸せの青い鳥なんて、どこにもいない。  現実には、いないじゃないか……。

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