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君を求めて
行為のあと。
俺はそっと睦月の体に布団をかける。
「…………」
二度と目覚めることのないその寝顔を見つめてから、もう一度、口づけを交わした。
「……おやすみ、睦月」
そのまま腰を上げて立ち上がり部屋を出る。
階下に降りると真っ暗な廊下が妙に寂しげに見えた。
「おやすみ……」
つぶやく声は闇にのまれて消えていく。
外に出ると真っ白な雪がふわふわと舞い降りて、夜の街を優しく染め上げていた。
そんな景色を呆然と眺めながら重たい足を踏み出す。
行き先は決まっていた。
心に迷いなんてなく、その場所へ行くためだけに機械のように体は動いた。
銀色の世界の中、俺は、ただひたすらに歩き続ける。
時折通行人にぶつかりそうになって、慌てて避けるという行為を繰り返して。
目的の場所につく頃には体は冷え切って、足は棒のように重たくなっていた。
それでも、自分の体にムチを打ち、建物の裏手に回って、折り返し階段を一段一段しっかり踏みしめて上へ向かう。
雪で滑りそうになる足場に気をつけながら、俺は睦月と何度も来た廃ビルの屋上を目指した。
一旦、建物の中へ入って中から上の階へ上がり、屋上へ続く踊り場に出た途端、年の始まりにここへ来たときの俺たちの姿が見えた気がした。
「…………」
大丈夫。――大丈夫。
自分の心にそう言い聞かせてドアノブに手をかける。
扉を開けた先に広がる空は真っ暗で、フェンスに近づいて見下ろした街は、舞い落ちる雪を纏いながらキラキラと輝いていた。
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