7 / 29

第7話

その日、まだ5月だと言うのに真夏並に暑い中、サッカー部は屋外で練習していた。基礎練をくり返していたが、暑さと疲労で部員たちのやる気もかなり消耗していた。そこで、コーチとキャプテンが相談して紅白戦を行うことにした。負けた方が練習後のグラウンド整備をすることになったので、それなりに白熱した試合になった。 コーナーキックからゴール前でのもみ合いになったとき、ひとりの部員の足が邦彦の膝に当たった。イヤな音がして邦彦はその場に倒れ込み、立ち上がることが出来なかった。 病院に担ぎ込まれて一週間、ギプスを巻いた足を見ながら邦彦は脱力感に覆われていた。 膝は靭帯を損傷し、リハビリすれば日常生活には支障のない程度には回復するが、過度な運動、サッカーは諦めるしかなかった。 プロサッカー選手になる才能があるとは思っていなかった。いずれはサッカーをやめる時が来て、それはあまり遠い先のことではないと覚悟はしていたが、こんな形でいきなり終止符が打たれるとは思いもしなかった。 邦彦は感情を表に出す方ではないし、自分以上に残念がっている親を前にあまり落ち込んだ様子は見せなかったが、心の中に言いようのない寂寥感が渦巻いて、これからのことを考える余裕はなかった。リハビリもそろそろと始めていたが、やる気が起きず集中出来なかった。

ともだちにシェアしよう!