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第21話

5月のある日、もうすぐ中間テストという時期で大きな学校行事もなく、生徒会にものんびりした空気が流れていた。役員会も特に急ぎの話し合いもなく、会議は早めに終わり、尾崎や黒木もすぐに帰った。 「時生、帰らないのか」 邦彦は、デイパックを抱えてホワイトボード前のパイプ椅子に座ったまま立とうとしない時生に声をかけた。 「うん、先に帰っていいぜ。オレもすぐ帰るから」 声をかけてきた邦彦に向かってうんうんと頷きながらそう言うと、時生はヒラヒラと手を振った。 「早く帰れよ」 邦彦は、一瞬他にも何か言いたそうだったが、そのまま生徒会室を出て行った。 時生はのろのろと立ち上がり、デイパックをテーブルの上に置くと、ソファーに移動した。 ソファーに横たわりながら、窓の外の、陽が傾きオレンジ色に染まりつつある空を眺めていた。 「キスの仕方教えて」 そう言って邦彦が時生に迫ってきたあの頃は、もう外は暗くなっている季節だった。 今はもう陽も伸びて、まだまだ明るい生徒会室で、時生は邦彦とのキスを思い出していた。

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