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第7話※

 アランは順調に快復していった。  体が鈍ることを嫌がり、外出を増やした。抜糸を終え、少しずつ仕事も再開した。傷が痛む日は腕を吊るが、アヤメを気遣って医師や看護婦は訪問させず、自ら病院へ出向いた。  アランとアヤメは以前のように体を求め合うようになった。むしろ、アランの在宅が増えた分、濃密な時間は増えた。  アヤメは彼をベッドの上に座らせ、傷の具合を見て、綿紗(ガーゼ)はもう必要ないかしらと言った。穏やかな午後の陽光が寝室を照らしている。アヤメがシャツを着せようとすると、アランの顔が間近に迫った。アヤメはごく自然に彼の唇を受け入れた。深くなる口づけに夢中になると、視界が反転する。 「……だめですよ。まだお昼なのに ……」  組み敷かれたアヤメは困ったように笑い、身を捩って這い出ようとするが、まろい尻を掴まれる。 「あっ……」  丹念に撫ぜては揉みしだかれ、アヤメは堪らず甘い吐息を漏らした。  彼に抱かれることは、アヤメの悦びであった。自分はそのために存在しているのだという自負があった。ゆえに、求められれば素直に応じる。所詮アヤメの抵抗など、その場を盛り上げるための演技に過ぎない。本心では心も体も彼を求めてやまないのだ。 「アランさま……、ぁ……」  昨晩も愛し合っていたというのに、アランは旺盛だった。大きな手がアヤメの肌をいやらしく這い上がり、シャツのボタンを片手で器用に外しながら、肩からシャツをずり下げた。露わになった首筋を晒され、アヤメは手で隠そうとする。自分で焼いた醜い火傷痕を見られたくないのだ。 「だめ……っ」  華奢な手首はシーツへ縫いとめられ、火傷痕をべろりと舐め上げられた。 「ひ……、」  柔らかい唇を何度も押し付けられ、アヤメの白い体はあっという間に熱を持った。滑らかな背中を唇が這い、ちゅ、ちゅと音を立てて肌を吸われる。その度にアヤメの体は小さく震えた。 「んっ、アランさま、ぁ……、ゆる、して……」  アヤメがぐずると、アランは微笑む。アヤメを抱き起こし、丁寧にベッドへ横たえた。アヤメはうっとりとアランを見上げる。  唇が重なった。アランに愛してもらえることはアヤメの幸福であり、生きる意味そのものだ。 「ふ、ぅ……」  切なげに眉尻が下がる。甘えん坊のアヤメは接吻が大好きだ。唇が離れると、自分から抱きついて口付けを求める。舌を貪り、唾液を絡ませ合い、口腔いっぱいアランで満たされれば、アヤメの頭は芯からぼうっとして、体は弛緩していった。  アランの唇が下へ下へと降りていく。首筋を這い、鎖骨を噛み、鬱血痕をつけ直し、胸の飾りを口に含む。 「あぁんッ」  しなる体に構わず、固くなった蕾を舌で転がし、むしゃぶりついた。  わざといやらしく音を立てて吸われることに興奮し、アヤメは胸を突き出して貪欲に求めてしまう。 「あっ、あ……」  愛撫はさらに下へと降りる。薄い腹の上から、臍の下へ。  ベルトを解かれ、下に履いていたものはすべて取り除かれてしまった。 「アランさま、あの、お体が……」 「問題ない」 「でも、ぉ……ッ」  尻に香油を塗り込まれ、アヤメはシーツを握って堪えた。まさぐるように雌穴の入り口を撫でられ、中指が埋め込まれる。 「ぁ、あ……」  アヤメは艶めかしい息を吐き、切ない声で啼く。  アランはわざとアヤメのいいところを避け、浅く出し入れを繰り返した。 「あぁ、あッ、ぁ」  アヤメの尻がくねる。自分でいいところに当てようとするが、欲しいものは与えられない。アヤメのゆるく勃起したペニスはもどかしい快楽に震えて泣いた。 「アランさまぁ……」  アヤメは懇願するように足を広げ、尻たぶを開いた。  肉壺はひくつき、より強い刺激、快楽を求めていた。  ──この雄が、早く欲しい。 「挿れて、くださ……、あうッ」  アランは指を増やし、雌肉を弄り回してアヤメのか細い喘ぎ声が部屋に満ちるのを楽しんだ。 「ぁ、あッ、あぁん……っ」  アヤメの腹の上で頼りなげに震える勃起。射精よりも気持ちのいい絶頂を覚えてからというもの、アヤメは女のように達することの方が好きになってしまった。それも、この雄に与えられるものでなくては、真に絶頂しない。一人遊びは虚しいだけだ。 「ぐちゅぐちゅ、だめ、だめぇ……っ」  雌肉がぎちぎちと指を食い締める。絶頂が近い。 「ぁ、イく、イく……、イッちゃ……」  待ち望んだ絶頂に、アヤメは何度も出し入れされる指を見つめながら、期待に頬を緩ませた。涎が垂れ、はしたなく腰を振り、必死に絶頂を得ようとしていた。 「あぁ……ッ」  待ち望んだ瞬間は訪れなかった。アランは指を引き抜くと、濡れそぼったそれで自身の勃起を握り込み、見せつけるように軽く扱いた。アヤメはごくんと喉を鳴らした。赤子のように涎に潤んだ唇で物欲しげに指を咥え、逞しい男根とアランとを交互に窺い見る。 「後ろを向きなさい」 「……はい」  大人しく言うことを聞き、のろのろと四つん這いになった。あまり気の進まない体位だ。嫌なところ──火傷痕は見られるし、アランの顔はよく見えないし、何より彼が遠く感じる。それでも雁首の張った亀頭が宛てがわれると、アヤメは発情した雌犬のようにはっはと呼吸を乱して、後ろを返り見て挿入の瞬間を見つめる。  熱い塊が押しつけられた。ゆっくり押し入られ、アヤメの白い喉がのけぞる。 「あぁん……ッ!」 「……っ、狭い、な」 「ごめ、なさ……っ」 「痛むか?」  アヤメは首を振った。アランはアヤメに何度もキスの雨を降らせ、落ち着かせようとした。アヤメの体が柔らかく溶けていくのを見計らい、一気に雄を突き進める。 「あ……ッ、ぉ、アッ、はぁ、はぁ……ッ、」  喘ぎ声の隙間で息継ぎをして、アヤメは文字通りアランとのセックスに溺れた。ねっとりとした視線でアランを見やると、アランもアヤメのとろけきった瞳を見つめ、愛する人の肉体を貪る。 「アヤメ、アヤメ……ッ」 「ぁ、アラ……、さま……、ふぅ、ンッ、んぁ、あ、アッ……!」  質量のある肉棒が狭まる肉壁を掻き分け、雁首が前立腺を擦る。アヤメの雄からはとろりと蜜が溢れた。何度も怒張した雄を打ち付けられ、深度は増し、行き止まりを小突かれる。 「んぉ……ッ!」 「アヤメ、済まない……っ、今は、許してくれ……!」 「あ、ぁ……、」  アヤメはもう体を支えていられず、アランの匂いのする枕にしがみつき、尻を高々と上げてされるがままとなった。肌と肌のぶつかり合う音、淫猥な水音、獣のような息遣い。汗ばみ、アヤメのペニスは情けなく揺れ、アランの重量のある陰嚢がぶつけられる。その重みを肌で感じると、早くこの中にあるもので胎を満たされたいとうっとりしてしまう。 (ああ、だめ……っ、入っちゃ、うぅ……)  ひと際深く、熱い塊に内蔵が押し上げられたと思うと、アヤメの声帯は意図せず震えた。 「んおッ、ぉ、ぉ……ッ、!」  もう上品に、愛妾らしく喘ぐことなどできなかった。  貪欲に雄を、快楽を求める。  胎内を貪られ、花園を荒らされる。 「アッ、あ、あぁンっ、はぁ、はぁ……、ぅぐ、はへ、はへぇ……ッ」  とちゅとちゅと小突かれれば、雄子宮の入り口はアランの雄に吸い付いて離れない。  アヤメはいつの間にか達しており、勃起からは白濁が垂れ落ちていた。 「いい子だ」  アランはアヤメの二の腕を掴み、ぐいと引き上げた。深さの増す挿入に、アヤメは苦悶する。 「んぁッ……、あ、あぁ……ッ!」  下腹を支えるように撫でられ、挿入されているものの存在をより強く感じる。アヤメの中の異物は、今やかえがえのない愛おしいものになっていた。アヤメは膝立ちになり、艶めかしくアランを返り見た。 「アラ、さま……っ、ぁ、あっ」  腹を撫でるアランの手に自分のそれを重ねる。揺すられる間、アヤメはアランの唇に夢中で吸い付いた。唇を吸う愛らしい音が部屋に響く。 「はぁ……、あ、ぁ……、」 「アヤメ……」  唇が離れると、アランの方からアヤメの肩口に顔を埋め、甘える。ぎゅっと抱き締められ、熱い体温に溶け合うようで気持ちがいい。うっとりと目を細め、引き寄せ合うように唇が重なった。 「んぅ……っ」  ゆっくりと律動が再開される。唇の合わさった隙間から艶やかな声と吐息が漏れ、アヤメの体は再び絶頂へ押し上げられた。 「あぁッ、はッ、ぁ、アッ……!」  身悶え、ゆるゆると頭を振る。黒髪が乱れる。アランの長い髪が簾のようにアヤメを隠した。色素の薄い髪が陽光に煌めいて、なんと美しい世界なのだろうと思った。快楽も相まって、まるで楽園にいるようだ。 (ずっと、このままでいたい……)  アヤメは繰り返し訪れる快楽の波と、熱く疼く胎内と、ひと突きひと突きに感じる重くるしい愛に身を委ね、一時気を失った。暗闇の中、覚えているのは胎の奥底の殴られたような感覚と、迸る熱い飛沫である。雄子宮はごくごくと美味そうに飲み干し、足らないとばかりにねぶり、アランのすべてを食い尽くそうとしていた。  次に目が覚めたとき、アヤメは足を大きく開かされ、真上からどちゅどちゅと剛直を打ち付けられていた。雌穴がめくれるほど激しく出し入れされ、甘く痺れる快楽に半狂乱になって喘いだ。かと思えば、もう立っているだけの力もなく、壁に押し付けられ、貪るように愛された。アヤメは遠のく意識のなかで、何度もアランを呼び、好きだと訴えた。中のものも、体も、離れると寂しくなって、彼だけを求め続けた。

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