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第4話

宏海が出ていって静まり返った部屋。 聞こえるのはセミの声…だけ。 ミーン ミーン ああ…夏だなぁ… ミーン ミーン うんうん、夏って感じ。 ─────って言ってる場合か! 夏がなんだ! セミがとうした…! 俺の夏は……もう 終わってしまったぁぁ! 始まったばっかなのに…! プールも行ってないのに…! まだ楽しい事なんもしてないのにぃぃ! 『あああぁ!俺のバカ……! チンコのバカッ!うわぁぁん!』 なんで あの状況で 勝手に勃ってんだよぉぉ… 『うぅぅぅ……宏海ぃ…』 せっかく悩みを話せたのに… 笑わずに聞いてもらえたのに… “クマさんみたいで かわいい” “好き” って言ってもらえたのに…! 『うわぁぁん!宏海ぃ…!』 枕をギュウギュウ抱きしめベッドにうずくまった時、ポケットの中でスマホが震え出した。 この着信音……電話だ。 『うぅ……ぐすっ…誰だ…こんな時に……』 スマホを取り出し、画面を睨みつける。 ───と、そこに表示された名前を見て ビックリして飛び起きた。 『───ひっ!宏海…っ!』 宏海からだ! てっきり嫌われた と思ったのに… ……いや、もしかしたら今から 「大嫌い」って言われるのか?! 『うわぁぁ!ど、どうしよう…!』 出る? 出ない? どうする? 出る…… 出ない…… 出る… 出ない… ああああ!どうしよう……! 出………、 出………、 出……………よう…! 出るぞ! とりあえず出てみて もし怒ってたら……謝ろう! 嫌われてたら………心から謝ろう! 『よ、よし……!』 期待半分、不安半分。 ドキドキしながら通話ボタンをタップする。 「あ、やっと出た。豪太?生きてる?」 『は、はいっ!豪太です! 生きてます!ごめんなさい!』 とりあえず、力いっぱい謝る。 焦って声が裏返った。 「うん?どうしたの?なんで謝ってんの? 豪太、なんか悪い事したの?」 『え…………ほぇ?』 あ、あれ……? 怒って……ない? 「さっきは急に帰ってごめんね? 用事あったの思い出しちゃってさ~」 『へっ?!よ、よーじ?!あ、ああー! なんだ!用事!へー、あー、そーなんだぁ! なんだ!OKOK!全然大丈夫っ!気にすんな!あはっははっは!』 き、嫌われても なかった~! よかった!わーい! 「よかった!やっぱ豪太は優しいね。大好き! …でさ、明日なんだけど、豪太 ヒマ?」 『……あ!はいっ!ヒ、ヒマ!すげー ヒマ!』 焦りまくって また声が裏返った。 クスクス笑う宏海の声が聞こえてくる。 『じゃあ、明日 また そっち行くから。 じゃあ明日ね♪ バイバーイ」 『え?あ!ひろ……』 宏海は言いたい事だけ言うと あっさり電話を切ってしまった。 『……………えーと…』 ……来る、って言ったよな… ……明日、ウチに…。 あと……“大好き”って言ったよな… 聞き間違いじゃないよな…? 言ったよな? 大好きって。 大好き… ………大好きだってーっ! いよっしゃあぁぁぁぁ! 生きててよかったぁぁぁぁ! 俺……終わってなかった…!!

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