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B/2 ※

 声を出そうとした瞬間、手島の舌が唇を割って入ってきた。  歯並びの悪い奥歯をなぞって口内を一周し、小崎の舌をからめとる。深く吸われて、何も考えられなくなった。 「手島……」 「ん?」 「な、何すんの?」 「さあね」  手島の唇は小崎の頬や、顎や、首筋を伝って徐々に下りてくる。制服のネクタイが、するりとほどかれた。 「手島、」 「ん?」 「てしま、」  外されたシャツのボタンの間から、手島のひやりとした唇が入ってくる。鎖骨をなぞって肩をはむ。ぞくりとして、小崎は思わず細い肩を震わせた。すっかり開かれた前合わせから侵入した手は、腹部から脇腹を撫でるように動きまわる。 「……てしま」 「何」 「な、んだよ、これ……」 「気持ち悪ィ?」 「……ンなこと、ないけど……」  一通り両肩を唇でなぞった後、手島は鳩尾(みぞおち)から肋骨(ろっこつ)をたどって腰回りを丹念に愛撫した。そのたび、小崎の肩や背が、小さく震える。 「な」  首筋へ戻ってきた口元が、小崎の耳のそばでささやいた。 「気持ちイイ?」 「……うるさい」 「んだよ、言えよ」 「うるせェって」  ささやきながらも止まることなく這う手島の手に気をとられて、小崎はうまく答えることができなかった。どうして、はっきりと言えるだろう。たとえ、ただ肯定するだけだったとしても。 「な」 「……んだよ」 「もっと触っていいか?」 「何が!」 「いいって言えって」 「わ、わけわかんねえ」 「はっきりしねえの」 「だって、う」  手島は有無を言わせぬように小崎に覆いかぶさると、強く唇を吸った。頭の芯が麻痺してしまいそうなその感覚に、小崎は酔ったようにぼんやりとした。 「ひゃっ」  とたん、ありえない場所にありえない感触がした。いつのまにか外されたベルトとファスナーの隙間から、手島の手が小崎の股間をとらえていた。下着一枚を挟んで、手島の手の平の体温が伝わってくる。 「てしまっ」 「んー?」 「何、なに、なにやって、うっ」  手島の手が、揉みしだくようにゆっくりと動いた。その前からすでに反応を始めていた小崎の性器は、手島の手の中で驚くほど早く硬化した。 「やっ、やめ、やめろよ」 「なんで」 「なんでって、なんでって、あ、あ、」  今や、布ごしにもしっかりと形が表れるほどくっきり屹立している。その輪郭をなぞりながら、手島はまた、唇で小崎の首筋を愛撫し始めた。  そんな箇所を、自分の手以外のもので包まれることなど、小崎は想像したこともなかった。初めての感覚に、戸惑いを通り越して何も考えられなくなった。何が起こっているのか理解できない。どちらにしろ気持ちいいことにはかわりはないし、かといって、快感にすべてをゆだねてしまえるほど理性がとんでしまっているわけでもない。  あらがえばいいのか、素直に感じればいいのか、自分で判断できなかった。 「うわッ!」  ぼんやりしている間に、手島の手はさえぎる一枚の布の中へ侵入した。 「ちょ、ちょっと待てよ、それは、ん、」  口答えを封じるかのように、手島はまた小崎の唇を塞いだ。今度は上も下もを押し退けようとする小崎の手を適当にあしらい、手島は強引に、したいようにする。小崎の口内を丹念に味わいながら、右手は小崎の固くなったものを丁寧になでた。熱くなって脈打つそれは、すでにしっとりと湿り気を帯び、手島の手の動きに敏感に反応する。 「ん、……、や、」  ときおり離れた唇の間から、吐息とともに拒否の(うめ)きも漏れる。それが本意でないことは、考えなくてもあきらかだ。 「てしま……あ」 「どう? いい?」 「や……」  ゆっくり焦らすように扱くと、誘われたように小崎の腰が動く。息遣いは隠しきれないほど荒くなっている。いい加減、我慢の限界というところだった。 「てしま、てしま……」 「んー?」 「っ、あ……」  頬や耳の後ろを愛撫しながら、横目で覗き見た小崎の眦は艶っぽく潤んでいた。それを見て、先刻から小崎の喘ぎ声にうずいていた手島のものも、急速に立ち上がった。 「あ、やべ」 「……え?」  片手に小崎のものを握りこんだまま、手島は上半身を起こした。 「な、なんだよ、」  今にも泣きだしそうな、怒りだしそうな、なんとも言えない顔で小崎が手島を見た。その初めて見せる表情に、手島の下半身はまたもや反応した。 「頼みがある」 「なな、何」 「俺のも触って」  小崎は、一瞬ひどく戸惑った顔をして、それから逡巡(しゅんじゅん)する顔をした。  そしてゆっくり横を向くと、薬指の爪を噛みながらかすかに頷いた。 「やった!」  手島は空いた片方の手で、すっかり最終形を迎えた自分の性器を取り出すと、小崎の右手に握らせた。 「一緒にイコうぜ」  小崎は答えるかわりに、添い寝した手島の肩に顔をうずめた。 「顔見せろよ」 「……やだよ」 「つまんねーの」  手島が動かし始めたのに合わせて、小崎も手に力を込めた。その細くて冷たい指の感触が伝わってくる。 「信じらんね」  同じ強さで、同じリズムで、同じ動きを繰り返した。次第に息遣いも重なってくる。 「すげー」  合間に手島は感想を漏らすが、小崎は何も言えずにいる。ただときおり、(うめ)きとも喘ぎともつかぬ声を立てた。 「すげーな、おい、な」 「……う」 「イク? もうイク?」 「あ」 「待てよ、もうちょっとだ」 「……ダメ」 「ガマンしろって」  手島は小崎の脈打つそれを一瞬離した。つられて、小崎の手も止まる。 「続けろよ、イカせねえぞ」 「……ひきょ」 「うるせ、早く動かせ」  腰の辺りに疼きをためたまま、小崎は右手を動かした。こんな状態で放られたのでは、とてもまともじゃいられない。意識があちこちに飛んで、とうてい長く続けられない。 「……てしま」 「もっとだ」 「は、やく」 「もう少し」  うずいて、もどかしくて、思考が止まりそうになる。もう幾らか焦らされれば、自分からねだってしまいそうだった。  そのとき、唐突に手島のそれは脈動を強くした。かと思うと、いきなり小崎のものも扱かれた。 「あ、あ、あ、」 「イク」 「うあ」  どくん、と、重なりあった身体が同時に波うった。腹部に生温かいぬめりが放たれる。その不快感より、達した後の放心の方が強かった。しばらく抱き合ったまま微睡(まどろ)んだ。 「小崎」 「……」 「な、おい」 「え」 「すげえな」 「……うん」 「なんか、すげえな。すっげ、イイな」  濡れていないほうの手で、枕にうずめた小崎の頬を押さえると、手島はゆっくり顔を近づけた。小崎は静かに目を閉じる。唇を合わせる仕草にも、ようやく慣れた。 「な、」 「ん」 「五曲目、どうだった」 「え?」 「新曲だよ」  コンポの音はすでに止まっていた。五曲目も何も、一曲目ですら記憶にない。小崎は仰ぎ見るようにして手島を睨んだ。 「もう一回きかせてやろうか?」 「……また今度な」 「今でいいじゃん」 「時間ねェだろ!」 「まだ帰ってこねえって」  コンポの再生ボタンを押して、手島はもう一度、あわてる小崎にキスをした。

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