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C/3 ※
翌朝、小崎が一人で歩いていると、手島が駆け寄ってきた。
「よっす」
「……はよ」
「どうしたんだよ、元気ねえな」
並んで歩きながら、手島は小崎の顔を覗きこんでくる。
「で、どう? 考えてくれた?」
「……考えるも何も、昨日っから頭ン中そのことでいっぱいだよ」
手島は大きく笑い声をたてた。
「じゃ、オッケ? 試していいか?」
「う」
「なんだよ、ダメなのかよ」
「ダメ、っつーか……」
「いいんだろ? はっきり言えよ。それで今日さあ」
「今日ッ?」
突然のことに、小崎はおもいきり振り返った。いくらなんでも早すぎる。まだ覚悟を決められない。しかし手島は、残念そうに言葉を続けた。
「いや、俺、今日バイトがあんだよな」
「バイト? おまえ、バイトしてるのか?」
「ピンチヒッター。代わり頼まれちまって、断れねんだよな。たまに代返してくれてるやつだからさー」
「へえ」
「だからよ、明日、土曜休みだろ?」
「いや、俺んとこ学校だ」
「へ? なんで」
「私立だからな、土曜昼まで」
「あ、そっか。じゃ、昼からでいいよ。そのまま俺んち来いよ。ババア帰るの遅ェから」
「う」
小崎は、またもや言葉につまった。そんなふうに決められても、戸惑ってしまう。なんだか、自分の知らないところで勝手に事が進んでいってるような気分だ。
「いいよな? 明日な?」
「う……ん」
とりあえずそう答えたものの、小崎は決して乗り気ではなかった。そんな小崎の様子には気づくことなく、手島は満足気に笑みをもらしていた。
「……や」
はだけられた前合わせの中を、手島の唇がはうように動いている。軽くキスをかわした後、手島は急いているように小崎を押し倒した。ベルトを外す手も乱雑だ。
「て、手島」
「何」
答える息遣いは荒かった。手島が興奮しているのはあきらかだし、それくらい小崎を求めているのだと思うと、決して嫌な気はしない。
でもなんていうか。
勢いが先行しているような気がして、こうして肌を触れ合わせているというのに、先日のような心地よさを感じられない。
「なあ、手島、そんな、急ぐなよ」
「何が」
「だって、ん……」
深く口を合わせて、乱暴に口内を探られた。その間に手島は、まだ立ち上がっていない小崎の性器へ手を伸ばす。硬くなり始めてはいるものの、まだ勃起せずにいる。感覚が展開に追いついていないせいだ。
「あれ?」
そうつぶやきながら手島は、まあいっか、とその更に後ろに指をはわせた。
「てし、っま」
早急なのを諫めようとした言葉は、強引なキスに吸いこまれた。口を開かせないようにしようとしている。いつのまに用意していたのか知れないが、オイルのようなもので濡れた手島の指先が、小崎の固くすぼまった蕾に触れた。ゆるりと揉みほぐして、侵入しようとしている。
「っ、っあ」
小崎は身をよじる。
「てしま、ちょっと待て」
「待てねえって」
「や、ちょっと、……んう」
ムリヤリふさがれた唇に気をとられているうちに、下半身に感じたことのない異物感が襲った。
「う!」
入っているのは、たぶん手島の指先関節一つ分程度だろう。それなのに、とてつもない圧迫感がある。鳥肌がたつほど気持ち悪い。
「まっ、待て! ちょっと待て!」
「今更ンなこと言うなって」
「や、ううッ!」
手島はさらに指を奥へと押しこんできた。痛みとともに、吐き気が襲ってくる。ちっとも気持ちよくない。
「いやだッ、やめろッ」
両手を使って手島を押し退けようとした。それなのに、小崎の言葉は無視されて、手島は差しこんだ指をひこうともせず、むしろ更に深く入りこもうとしている。
「てしまッ!」
「暴れんなって、すぐよくなるから」
「やだ、はなせっ」
「ッ小崎」
力ずくで、手島を突き飛ばした。体勢を崩した手島がベッドから転がり落ちる。
「何すんだよ!」
「うるせえッ!」
胸の奥がムカムカして、身体のあちこちが強ばっている。小崎が荒い息のまま睨みつけるのを、手島は怪訝そうに睨み返した。
「なんだよ、何が嫌なんだよ」
「急ぐなッつってんだろッ!」
「何言ってんだよ、女みたいなこと言うなよなっ」
そう、言い返されて、小崎の中で何かがふつりと切れた。
「女みてえってなんだよっ! そりゃ、てめえはつっこむだけでいいだろうがよッ、こっちはつっこまれるほうなんだよ、そんな簡単に割り切れるかよッ、いい加減にしやがれ!」
そのまま、小崎はベッドを飛び降りると、荷物をつかんで部屋を出た。
「小崎!」
服を直しながら玄関まで下りた。後ろから手島が階段を駆け下りてくる。
「待てよ、小崎、待て!」
「しばらく会わねえからなッ」
言い捨てると、力任せにドアを閉めた。
そのまま一度も振り返らずに、小崎は手島の家から走り去った。
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