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目醒めの夏 第2話

 それが優一郎との出会い。  あの年はそれだけしか関わりがなかったんだけど、次の年も優一郎は同じ場所に居て同じように水面を蹴っていた。  俺は、去年注意したのにまた来てるってことは悪い人なのかもしれないって思って、注意深くそろそろと足音を立てないようにしてたんだけど、どうして気づかれたのか優一郎はくるりと振り返って俺を見つけてしまう。 「優一郎さぁ、俺が黙ってやってるからええけど、ほんまはここって涼みにきたらあかんとこなんやで?」  幾度目かから、俺は体が冷えて腹を下したって嘘を吐いて、優一郎のとこにくるようになっていた。  だって、あの湖の浅瀬は俺にはもう本当に浅くて、冷たい水も小さな魚も足元の石もそこまで魅力的じゃなくなっていたから。 「そうなんやけど、   」  理由を言いそうで言わないまま、優一郎は湖面の方に目をやってから眩しそうに顔をしかめる。  夢に微睡むような、  遠くを見るような、  どこかうっとりと蜃気楼を追いかけているような……    そうされると、ちょっと優一郎が遠くに行ってしまうような気がして、麻のシャツの裾をくいくいと引っ張らなくてはいけなかった。  どこかに行ってしまいそうな顔がこちらを向いて、黒い瞳に俺を映してやっと、この人の隣にいるのは俺なんだって安堵できる。    優一郎に俺を見てもらえると、ほっとするのはどうしてだろう?      最初に目に入った艶のある黒髪もそうだったけど、黒い目とか、少し痩せすぎなんじゃないかなって思えるような顎のラインとか、刈り上げられた項とか、白いシャツがわずかに透けて肌の色が見えてる部分とか……  話は正直、面白いかどうか微妙だったけど、俺が話すことを興味深そうに頷きながら聞いて笑ってくれるのに、なんか……いいなって、思って。  だから夏の「おじいちゃんとこの湖」で遊ぶ行事は、いつからか「こっそり抜け出して優一郎と話す」って行事にすり替わった。 「  ────なんで、ここにくるん?」  あまり自分のことを喋らない優一郎に焦れてそう尋ねたことがあった。  ここまではっきりと聞けば、答えをはぐらかすのも難しいだろうって思ったからなんだけど…… 「約束してるん。ここで会おって言われてて」  そう言うと優一郎は濡れた足を岩の上に置いて、所在無げに膝を抱える。 「え……いつも?」 「うん」 「時間は?」 「抜け出せたら来てくれるん。忙しい人やからね」  それでずっと待ってるってことにむっと腹が立った。

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