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目醒めの夏 第3話
「なんやねんそれ! 連絡すればええだけやん! なんでこんなところでぼーっと待っとかなあかんねん! 時間の無駄やろ!」
立ち上がって怒り出した俺は勢い余ってぐらって倒れそうになってしまって。
優一郎が慌てて押さえてくれなかったら湖に落ちてたと思う。
って言っても、水着だし、スイミングで上の方の教室に行ってるし、落ちたって問題ないんだけど。
「ここで暴れたら危ないやん、落っこちるで? この辺の岩は苔が多い言うたやろ?」
「わ、わかっとるわ」
素肌にぎゅうって優一郎の手が当たってて、恥ずかしさにジタバタと駄々こねる妹みたいに手を突っぱねて距離を取る。
「ほら、暴れたあかんて。……あんな? でもええこともあるんよ。こうやって話しできるようになったやろ?」
「…………」
「待ってへんかったらできんことやろ」
ふふふ と満足そうに笑うから、俺は怒りのぶつけ先を見失って……
「でも私有地を待ち合わせにするんはどうかと思うで」
「うーん……でもここ、人来ぉへんからな」
それは、人に知られたくないってことなのか?
そう考えるともやもやしたものが胸でわだかまって、あんまりいい気分じゃなかった。
「退屈やないん?」
「んーまぁ普通かな」
きっと俺なら、優一郎がいないとカップラーメンが出来上がる前に退屈で死んでしまうと思う。
優一郎は、俺が帰った後に会う奴とどんな話をしてるんだろう?
胸に焦れるような思いが何かなんて全然分からなかったんだけど、後に来たそいつが俺よりも優一郎を笑わせてるのかなって思ったら面白くなかった。
俺なら待たせることなんかしないし、
俺ならもっと笑わせてあげれるし、
俺ならもっと、寂しい思いなんてさせないし。
人に見られたくないのに会いたい相手なんて、それがどう言う相手かは分からなかったけど、それでも見つかったら怒られるのを覚悟で私有地に行くぐらいなんだから、優一郎にとって特別なんだってのはわかる。
夏に、ちょっとだけ話す俺なんかは、全然特別じゃないってのもわかる。
でも、俺もあの夢を見ているようなうっとりした視線で見て欲しくって……
「父ちゃん、だれかの特別になるんて、どうしたらええんかな?」
弟と妹が線香花火に飽きておじいちゃんにスイカをねだりに家に入ってしまった時に、ぽろっと聞いてみた。
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