4 / 16

目醒めの夏 第4話

 いつもは何でもかんでも茶化すか、めんどくさがってお母さんに聞けって言うくせに、なんだか妙に神妙な顔をして「うーん」って悩んでくれた。 「んなら、プロポーズやなぁ」 「プロポーズ?」 「一緒にいたいんならそれやろなぁ」    父ちゃんは左手の薬指にはまっている銀色の指輪を擦りながらそう呻く。  そう言えば、テレビでもそんなことをしてたような気がする。  ふむ……と考えてはみるけど、財布の中にあるのは小銭が何枚か……おじいちゃんがくれたお小遣いは母ちゃんに渡してしまった。    俺でもさすがに小銭何枚かで指輪が買えるなんては思っていない。  来年もおじいちゃんのところには来るから、一年かければ貯まるかも?  友達との買い食いを我慢すればできるかもだけど……  それを我慢するにはちょっと勇気が出なかった。 「あ!」  ぴんときて、線香花火を放り出して家の中に駆け込んだ。  後ろから父ちゃんが怒ってたけど無視して台所に駆け込む、そこには昼間おばあちゃんが買ってくれたおやつが籠に入っていて、そこに妹がねだっていたおもちゃつきのお菓子を見つけた。  細長くてカクカクした箱の側面には指輪の写真が載っていて、これだ! って思ったから、鉛筆立ての中から定規を探してそっと箱の上の部分にそれを挿し込んで開ける。  何回か箱を振るところんとピンク色の石のついた指輪が掌に転がって、ちょっと指に通して確認してみた。  銀色で、リボンの形の真ん中に大きめのピンクの石がついている。    優一郎のイメージだとピンクよりもミドリの石のほうがよかったけど、残念ながら籠の中にこのお菓子は一箱しか入ってなかった。  それでも、これも立派な指輪だ。  俺は探し出した糊で丁寧に箱の蓋を貼り付け直して、指輪をポケットに入れた。  これを手渡せば、俺は優一郎の特別になれるかな?  そうだといいなって思いながら眠りに就いた。  朝早く起きてきた俺を、母ちゃんがびっくりした目で見てきた。 「どうしたんー? 雨でも降るんちゃう?」 「降らんよ」 「ふぅん?」  ちょっとその態度は失礼だろって思ったけど、夏休みはどうしてもいい加減に起きなさいって怒られるまで寝てしまうから、しかたないのかもしれない。  おばあちゃんが作ってくれた甘い卵焼きでご飯を食べて、さぁ出かけようってしたところで母ちゃんに首根っこを引っ掴まれた。 「宿題は?」 「え……できとるよ」 「ホンマに?」  ホンマって繰り返したけど、「見してみ」って言われてしまうと目を逸らすしかない。  結局、今日の分の宿題をしないと外に出たら駄目って言われて……

ともだちにシェアしよう!