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目醒めの夏 第6話
取り返そうとした手が空ぶって、慌てて顔を上げた先にはその指輪を掲げている優一郎がいて、目が合うとぱっと微笑んでくれた。
「きらきらやなぁ!」
言葉尻が弾んで、夏の朝の陽ざしに指輪をかざして一生懸命に光らせようとしている姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
「き、きらきらやろ?」
「ええのん? これ貰って。妹ちゃんおったんちゃうん?」
その妹のお菓子に入っていたんだって言えないまま、こくこくと頷いてみせる。
「そかぁ……きれぇなピンクやなぁ」
「はめてやってもええんやで」
ぶっきらぼうに言った俺に優一郎はぷっと噴き出す。
それがひどい子ども扱いに思えて、頬を膨らませながら指輪を奪い取った。
「もうっ! ほら、手ぇ!」
笑いを抑えないまま、優一郎は右手を差し出してくる。
それを叩き落して、だらりと下げられたままだった左手を掴んで、何か言われる前にぐいぐいと薬指に突っ込んだ。
お菓子についているような指輪だから、幾ら細っこくても優一郎の指には小さくて……
なんとか無理矢理突っ込んだけれど明らかにきつそうだった。
「…………」
「…………」
ハムみたいに指輪が食い込んだ指を見て、二人とも無言だ。
「……ごめん」
手に入れた時はもうこれ以上ぴったりのものはないって思ったのに、それを見てたら自分がどれだけ一人で舞い上がって、周りが見えていなかったのかを痛感して急に恥ずかしくなった。
「ら、来年、もうちょっと大きいん持ってくるし!」
つけた時と同じように無理矢理取ろうと手に飛びつくと、頭上からくすくすと弾んだ笑い声が降ってくる。
「いいや、これがええよ」
ぽんぽんと頭を叩かれると、妹ぐらいの小ささになったような気がして居心地が悪い。
「可愛いし、綺麗やし、ピンクやし」
「……ミドリの方が似合う思うけど?」
「んー……緑は飽きたな」
指輪をはめた手で辺りを示されて、それもそうかとほっと胸を撫で下ろす。
何はともあれ、これで優一郎の特別になれたかなって思うとちょっと胸がうずうずする。
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