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午睡の蹲 第2話

 優一郎と会っていたあの岩場は丁度木の影からはみ出ていて、日光がずっと当たっている場所だった。   さんざん日の当たる場所で呑気に座っている幽霊なんて聞いたこともない。  馬鹿らしい と手足を投げ出して倒れてはみたが、炎天下ではそう長く転がっていることもできずに渋々起き上がった。 「どうせ、近所の奴が私有地に入ってたのバレたくないからって逃げたんやろ」  きっとそうに違いない。 「たまたま顔が似てたってだけの話やろ」  そうじゃないと優一郎は…… 「  っっっあーっ! もうっ!」  飛び上がって頭をぐしゃぐしゃの掻くと、その足で「おじいちゃんとこの湖」へと向かう。 「第一やな、ぐだぐだ考えるんがあかんのや」  母ちゃんからは山の湖には絶対に行くなって言われていたけれど、もうそれを大人しく守るような年じゃなかった。  記憶を頼りに……なんて言葉が馬鹿馬鹿しくなるほど、一本道を行くと少し開けた場所が見えてくる。  とは言っても、随分と狭く感じて記憶の中の姿とはずいぶんと違う。  湖があるからそうだと分かるだけで、それがなければ思い出の場所とは思えなかっただろう。  俺達が来なくなって念入りに手入れをすることもなくなったと聞いていたし、この夏の時季に少しでも放置すれば草塗れになるのは当然だった。  とは言え、大きいと思っていた湖も今となってはそれなりのサイズだと言う感想しか出ない。  夏でも冷たくて、  木々に囲まれた、  ただただ静かな湖。  記憶通りに正面を避けて回り込んで行くと、いつも優一郎が腰を下ろしていた岩場が見えてくる。  小さい時はこの辺りの草ももう少しマシだったが、今では進むのもやっとの状態だ。 「そう、あそこやな。ここまで来るといつも頭がちょこっとだけ見え、て……」  最初、それがそうだなんて思いもしなかった。  けれどその黒い頭が俺の記憶の通りに振り返り、以前と同じく「靖治?」って尋ねてくるものだから……  俺はもう、腹を括らなきゃならないなって思って立ち止まった。 「どうしたん?」  そう記憶の中の通りの問いかけに答えられずにいると、昔と変わらない姿の優一郎がぱっと岩から飛び降りてこちらへと駆けてくる。

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