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 あれは小学校の頃。   全校生徒が校庭に集められて、先生から運動会の学年練習の注意点を聞いていた時のこと。 思いのほか先生の話は長く、秋晴れの日差しは夏の名残すらあるように強く。 千雪は強い渇きを覚え、その黄色い光に射抜かれたように眩暈を起こし、足元から薙ぎ払われる草のようにぐらりとふらついた。 (ああ、倒れる)  そうぼんやりと頭をよぎったが、一瞬の出来事で咄嗟にしゃがむことも出来ない。目の前にチカチカと星が瞬き、今度は真っ暗闇になった。  ほっそりした身体がぐらりと傾いで、周りから少年少女の甲高い悲鳴がさざ波のように広がって行く。 そのまま身体の右側から地面に叩きつけられるかと思ったが、誰かが千雪に飛びついて羽交い締めするように両腕で千雪の身体を力いっぱい抱きしめてくれた。がくんっと落ちる膝、しかし寸でのところで校庭との衝突は避けられた。 しかしそこは体重は互いにそう変わらぬ、子供同士のこと。  千雪が倒れ込む勢いを完全に殺すことはできず、助けてくれた少年諸共に地面に崩れ落ちた。 華奢な千雪を真っ黒に日焼けした、しなやかな腕が抱え込む。彼はその拍子に地面に自らの膝を強かに打ち付けたようだ。押し殺した「うっ……」と小さな呻き声が千雪の耳にもすぐに届いた。 ずり、と地面を力の入らぬ千雪の運動靴の足裏が引っ掻き、立ち上る土煙の埃っぽい匂いと血の香りが鼻をつく。しかし胸の前に回された腕が意地でも離さぬとばかりに、さらに強く背後から千雪を抱きしてきた。

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