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「……千雪、俺がお前の世話やくの、迷惑か?」 「……」  さっきまで遠慮なくぐいぐい来たくせに、虎鉄は切れ長且つ黒目が大きく澄んだ瞳で千雪のご機嫌を伺うように覗き込んでくる。  急に飼い主に叱られた柴犬よろしく、強肩で鳴らした広い肩を縮めるようにしゅんとさせていじらしいほどだ。 (なんだ、その顔。ずるい) 「なあ?」  まるでこちらが意地悪を言ったみたいで胸がキュッとしてしまう。  虎鉄の力強い視線と真っ直ぐな言葉はいつでもひたむきに千雪を捉えてくるから、時おり主人に怒られて弱った大型犬みたいにしゅんとした哀し気な眼差しを向けられると参ってしまう。千雪はこの目に弱いのだ。 だが 幼馴染の域を超えた熱っぽい眼差しは時として千雪を落ち着かない気分にさせ、その刺激にちりりっと胸が痛み千雪はそっと目を伏せそらした。 「迷惑かっていえば……。母さんより口うるさくて面倒な時もあるけどさあ。俺が一番一緒にいるのも遊ぶのも、虎鉄だけだし」  一臣、虎鉄、塁、瑛介と男ばかりの4人兄弟の上から二番目で、小中高と野球部の友人も多い社交的な虎鉄と違い、一人っ子の千雪は人見知りで、放課後は祖父の代から営むこの喫茶店の片隅で静かに本を読んで過ごすようなそんな大人しい子どもだった。体質が原因ですぐに貧血を起こすから運動とも無縁で、遠慮なく外に遊びに連れ出してくれるのは昔から虎鉄だけなのだ。 「全部が全部迷惑ってわけじゃないど……でも」 「ならいいだろ?」 そう言って再びぐっと身体を寄せられるから千雪は思わず目を見張って、それから動揺を隠すように長いまつ毛をそよがせ伏せた。 (こんなふうにキスとかされると、どうしていいか分からなくなる……。隙あらば外でもしてこようとするし、 揶揄われてさ、俺ばかり意識してるみたいで嫌だ) 千雪の 戸惑いの原因はただ一つ。  昔から口を開けば「千雪、可愛い、綺麗、好きだ」だとか言う割に、虎鉄の方から「付き合ってくれ」と言われたことは無いのだ。  

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