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 しゅんとしたのはただの演技だったのか。突き放した分詰めてくる。いつも通りの近い距離感で接してくる虎鉄を心にもない言葉を使ってまで再び突き放すことはできなかった。  なんだかんだ文句は言うが、臆病者で人との関係を深める術を持たない千雪にとって、心の距離をぐっと向こうから詰めてくれる虎鉄との間合いが嫌いではない。むしろ……。 (世話やかれんの、本当は嫌じゃないって虎鉄にバレてんのかな。そんなの恥ずかしい)  仕事の関係で海外にいて年に数度顔を見せればいい方の父と、祖父の代から続く喫茶店を一生懸命護る母。両親は優しいがやはり幼い頃は寂しい思いをしてきたこともある。  だからこんなふうに甲斐甲斐しく世話を焼いてもらうと嬉しくてどうしても顔がにやけてしまうのを止められなくなる。 でも千雪はそれを虎鉄に悟られたくなくて、ひっそり口元に腕を翳して誤魔化した。 「千秋さん今日ヨガ教室の日だろ? 俺、シフト早めに上げてもらうから、夕飯、下のキッチン借りてなんか作るよ。一緒に食おうな?」 「……わかった」    穏やかで低い声で話しかけられると、胸がぎゅうっと暖かく、同時に切なくもなる。 (何もかも虎鉄に敵わないのは男としては悔しいけど、やっぱ、虎鉄、優しい。カッコいい。好き……)  甘やかされたら照れ隠しで憎まれ口ばかり叩いてしまうが、千雪はもう思い出せないほど昔から、そうあの保健室で虎鉄をより強く意識するそのずっと前から。虎鉄のことが大好きなのだ。  面倒見がよく長身なのにキビキビと動く頑健な身体も、日に焼けた顔から零れる白い歯に浮かぶ、眩いお日様みたいな爽快な笑顔も、こうして具合の悪い時に優しく触れてくれる暖かい掌も。どれも千雪が憧れて止まず欲しいものばかり。万年貧血気味で運動の苦手な千雪にとって虎鉄が試合で活躍する姿を見に行くことが何より楽しみだった。虎鉄は幼いころからの、ずっと千雪の一番のお気に入り、出来れば手離したくはないのだ。  

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