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 虎鉄は、この喫茶店と同じ通り沿いにある中華料理店で受験が終わった直後からアルバイトをしている。虎鉄の兄が以前バイトをしていたというのと、大将が4兄弟が所属していた地元少年野球チームの監督をしているからその縁があるのだ。きっと今、遅い昼休みの合間に千雪に食事を運んできてくれたのだろう。  千雪の方も祖父が残したこの喫茶店での母の手伝いを土日や講義の合間の時間にはできるだけするようにしている。しかし今日はどうにも体調が優れず店の三階にあるこの部屋で休んでいた。このところの初夏を思わせる陽気と上着の必要な涼しさが、交互に訪れその寒暖差にやられたのかもしれない。  今、二人がいる店の三階のこの部屋はかつては亡くなった祖父のものだった。 畳敷きのこちらの部屋は寝室で、ひと跨ぎできる狭い廊下を挟んだ向かいの部屋には、祖父の残したかつてお店でかけていたジャズのレコードがたくさん詰まった棚もそのままにしてある。  二階には設備は古いがダイニングと水回りがそろっているが、三階で飲み食いする時は今どき珍しいちゃぶ台にくたっとした座布団を敷いて胡坐をかいて食べている。  古めかしい紐で引っ張って点灯するタイプの電気に、背中をつけるとじゃりっととれる砂壁。廊下の間は星の模様の硝子の引き戸がついている。ちょっとノスタルジックなこの空間は祖父が存命中から、兄弟が多く賑やかな自宅から静けさを求めて度々転がり込んでくる虎鉄にとっても居心地の良い隠れ家となっているようだ。熱心な野球ファンでもあった祖父は虎鉄のことも孫同然に可愛がっていた。 「ほら食べろ? レバニラ炒め! 白メシもスープも貰ってきた。貧血にきくぞ?」  

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