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流石に驚く常連客や母親を尻目に、千雪は赤い唇をんーッと突き出し可愛く尖らせて今度は自分の方から虎鉄の襟元に手を伸ばす。   「千雪?」  中々動かぬ虎鉄に焦れたのか、ちょっと婀娜っぽさすら感じる、だがとにかく可愛らしい笑みを浮かべて虎鉄を見上げてきた。 「ちゃんとして?」  おおっと周りがどよめき、虎鉄までもが舌を巻いて顔を真っ赤にしてしまう。その手から取り落しそうになっている皿を満足げに受け取った千雪がトーストを齧る様子を、千秋は息子の変化をまじまじと見つめていた。 (千雪、なんか急にマリウスに似てきたかも)  愛し愛されるものから溢れるオーラが出ているからなのか。王たるマリウスのように意識せずとも周りを惹きつける星の瞬きにも似た輝きがきらきらと息子の身体から零れんばかりに見える。  ふと周りを見渡せば、元々息子に夢中な虎鉄はおろか、周囲の人々もポーっと赤い顔をして千雪の方をうっとりと魅入っている。その中には最近通ってくれている千雪たちと同じ学校に通う学生さんの姿も含まれていて……。 「あの、ちょっとお話しいいですか!」 「前から千雪君とお話をゆっくりしてみたいと思っていて」  虎鉄幾ら焦っても皿やらコップやら所狭しと並べられたカウンターに阻まれて千雪の元にすぐに向かえない。雨後の筍のようにカウンターに座る千雪の背後から老いも若くも店内の男性客がわらわらと千雪に群がってきた。 「なんだ、これ! 千秋さん!」 「あれじゃない? ついに相思相愛になって、千雪自信に満ち溢れすぎて、自力でちょっと封印解いちゃったの、かな? 血は争えないものね~」 「そんな馬鹿な」 「あーあ。虎鉄、せっかく相思相愛になれたのに、これからまた苦労しそう(笑)だわね」 お客様にはついつい愛想良い千雪が彼らに順々に笑顔を振りまいているのがまた小憎らしい。 「よるな! 触るな! 千雪は俺の許嫁だ!」 「ふふっ。そうだよ。俺は虎鉄の、許嫁なんだよお」 またも桃色とも言うべき幸せな空気を孕んだ千雪の笑顔が炸裂して。 千雪の魔力の封印が緩んだことに勘づいた従兄弟達がこの街に押しかけるのも、大学で千雪を巡り小競り合いが起きるのも、またちょっと先のお話。 終

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