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第12話

「痛くされんの嫌いちゃうやろ」 紐を通した鴨居がギシギシ耳障りに軋む。顔に張り付く布が蒸れて気持ち悪い。 前にいるのは本当に茶倉なのか。茶倉に化けた悪霊じゃねえのか。それなら悪趣味なまねも納得いく、だって俺たちは 『次は般若心経デラックスリミックス聞かせたる。そっちも喉鍛えとき』 友達だったはずだ。 「!い゛ッ、」 「エロい体。もうしたたっとる」 下着ごとズボンを下ろされた。下肢が外気にさらされ毛穴が縮む。剥き出しのペニスを手が包み、緩やかにしごきだす。 湿った布の奥でギュッと目を閉じ、不快な感触を追い出そうとする。すかさず残りの手が脇腹をまさぐり、胸板を這い回る。 「ひゃうっ」 「ここがええんか。ピンクに色付いて、すっかり開発されとる」 甘く鋭い痛みが走る。乳首を抓られた。乳首のしこりをこりこり楽しみながら、反対の手で俺の股間をまさぐり、鈴口から分泌されたカウパーを全体に塗していく。一番感じる裏筋をなぞり、張り詰めた睾丸をもみほぐし、会陰のふくらみを指圧する。 「あっ、あっ、ぁあっ」 「悪霊にまわされんのホンマは楽しんどったんちゃうか、夢中で腰振っとったもんな」 「違ッ、ぁ」 「正直に言うてみ。ジブンから体開いて誘ったんやろ」 茶倉は上手い、手と指の技巧だけで俺を良くしていく。かと思えば首筋を甘噛みされ、電流が駆け抜ける。 こんなの強姦と大差ねえ、合意の上の行為なんて断じて認めねえ。人を呼ぼうと決断、深呼吸した矢先。 「ヤッてるとこ見られてもかまへんの。晒しものになりたいゆうなら止めへんけど、まず間違いなく変態の烙印おされるで」 清美さんや藤代さんの顔が脳裏に過ぎり、唇を引き結ぶ。ただでさえ山奥で木に発情する変質者と疑われてるのに、この上目隠し緊縛プレイが趣味なんて誤解されたくねえ。大前提として、今踏み込まれたら恥をかく。 「さぞかしたまげるやろな、神聖なお山でマスかいた次は座敷でよがっとるんやから。裸一丁で叩きだされたかて文句言えん」 怒りが爆ぜた。虚勢を張って凄む。 「てめえも同罪だろ、男を強姦してる現場に踏み込まれたら茶倉練の名前に傷が付くぞ」 「一蓮托生か」 「ぎっ」 だしぬけに腕が攣る。鴨居に通した紐が引っ張られたのだ。 足裏が畳を掠り、重心が不安定に傾ぐ。次いで茶倉が顎を掴み、正面に固定する。 「お前を道連れにどん底まで堕ちるんも一興かもな」 自暴自棄に吐き捨て、俺の体をもてあそぶ。 「茶倉ッ、ふぁっ、そこっや、待ッ」 「ちなみに一蓮托生ちゅーんは有り難~い仏教用語、善行を積んだもん同士が極楽浄土の蓮の花に生まれ変わる事をさす。転じて物事のよしあしに関わらず、運命をともにする相方をさすようになったらしいで。俺たちも親指姫みたく蓮にくるまれて転生するか、どうせ腐れ縁なら極楽地獄どっちにも付き合うたってくれや」 饒舌な蘊蓄がまるで頭に入ってこねえ。長くしなやかな指が器用に蠢き、片や勃起したペニスを、片や乳首をねちっこく責め苛む。 「ぁッ、ふっ、あぁ」 噛み殺した吐息が次第に喘ぎ声へ変わっていく。猿轡を噛まされてねえのが幸か不幸か判断付かねえ。茶倉の脅しはてきめんだ、関係ねえ清美さんや藤代さんを巻き込むのは嫌だ。 「悪ふざけも大概にしろ、お前おかしいよさっきから……藤代さんのお袋さんに会ってから、おきゅうさまの昔話聞かされてからずっと変じゃん、なんかひっかかってんなら黙ってねえで言えよ!どうしちまったんだよ、らしくねえよ。お前はクソ守銭奴ですかしたヤなヤツだけど、こんな強引なやりかたしなかったじゃねえか」 「最近マンネリさかい趣向を変えてみたんや。お気に召さんか」 頬に湿り気が滴った。 「俺のせいか」 馬鹿だから。 「だからキレたのか」 鈍感だから。 「風呂覗いたからキレてんのかよ。いきなり開けて悪かった、ごめん謝る。先に入ってるなんて知らなかったんだよ。でもあんな」 喉が渇いて舌が突っ張る。言葉が続かねえのは息苦しい程の罪悪感のせい。 「背中の傷痕のせいで、脱がなかったのか」 「……」 「旅館で温泉パスしたのも修学旅行サボったのも、全部あの傷痕のせいか。ばあちゃんにやられた……」 知らなかった。言ってほしかった。頼ってほしかった。ずっと俺だけ甘えてた。 お前が祖母ちゃんを憎む理由が、よくわかった。 「十年越しに爆弾投下でだんまりかよ。おんなじ修羅場くぐったのに水くせえ、二人三脚でバトったじゃん」 十年前、俺と茶倉は鳥葬学園の怨霊を退治した。 カラスにモツ食われたり能面オバケに襲われたりさんざん酷い目にあって、逃げて転んでぶたれて傷だらけのボロボロになって、でも最後には二人で弓を引いて学園に巣食った悪霊を倒したのだ。 「一緒にカラオケ行った。ラーメン食った。楽しかった。板尾と三人で打ち上げした。またカラオケ行った。お前は般若心経デラックスリミックス絶唱。板尾がタンバリン叩いて、二人でデュエットしたっけ。曲は」 「青春アミーゴ」 「やっぱ覚えてんじゃん」 きらびやかに回るミラーボールの下、並んでマイクを握った茶倉の仏頂面を思い出す。 「音程ずれてた」 「せやからいうたやん、般若心経以外あかんて」 「すっげー渋い顔して、笑えた」 「お前のノリが寒すぎなんや、だだ滑りしとったで」 「十年だぜ。話す時間はたっぷりあった」 「すんだこっちゃ」 「勝手にすませちまったんだろ」 「興ざめ。萎える」 「目隠しとれ。顔見せろ」 面と向かって言いてえことがあるのに懇願は一蹴された。衣擦れの音に続き、カウパーを塗した手が後ろに回り込む。 まずい。 「お前、茶倉、隠し事してんだろ。よく考えりゃ清美さんが事務所に来た時から変だった、おきゅうさまって聞いた途端顔色変わった」 後ろをほぐす手は止まらず、肛門を探り当てこじ開ける。 「日水村に来た理由は金目当てじゃねえ、もっと他になにか、ぅぐ」 「舌噛むで」 「~~~~~ッ、いい加減教えろよ。助手だろ。相棒だろ」 「ただの腐れ縁」 それがお前の本音か? 俺は助手ほど役に立たず、相棒ほど信頼されてもいねえ、ただの腐れ縁のお荷物にすぎねえのか。 「~~~~~~~~~~ぁあっ」 茶倉が力ずくで押し入ってきた。凄まじい圧迫感に息が止まる。剛直が体内で脈打ち、前立腺のしこりを潰す。体を手荒く揺さぶられ、律動に合わせて腰が弾む。 「なん、で、ちゃくら、大事なこと、一個もッ」 どうして教えてくれないんだ。 霊姦体質に目覚めてからずっと、十年以上ずっとずっとお前の世話になりっぱなしだった。TSSの助手を務める事で少しでも借りを返せりゃいいって、そうおもって頑張ってきたのに 「俺ッ、は、蚊帳の外、で、ンあっ、今も昔も肝心な時に力になれねっ、ふぁ、っぐ、無能、役立たず、でッ」 悔しい。情けない。死ぬほど惨めだ。じゃあなんで連れてきた、俺なんかいねえほうがよかったじゃんか。 今の今まで溜め込んできた感情が弾け、しゃくりあげる。 「こんな村嫌いだ、ンあっ、お前をへんにするッ、ひっぐ、おきゅうさまなんか知るか、ぁふっ、ここにきてからずっと、ぐ、ピリピリしてっ、おっかなくて、俺の知ってる茶倉じゃねーみてえだ」 犯されながら本音を叫ぶ。直後、茶倉の声が冷えた。 「ホンマの俺なんかどこにおるんや。節穴がたった十年ぽっち見てきた俺が、ホンマの俺やとでもぬかすんか」 東京に帰りたいとぐずる俺の首に手をかけ、勢いを増し奥を突く。次の瞬間、何かが蠢いた。 「はっ……?」 深く挿入された剛直、狂おしい支配欲に駆られた抽送。 抜き差しの間に無数の繊毛が肉襞をなで、根を張り、粘膜を巻き上げる。 「ぁっ、ひぐ」 頭が真っ白になる。今まで味わった事ない不快な感覚……それが凄まじい快楽に裏返り、腰から下が蕩けていく。 「何、抜けっ、あぐ」 「逃げるな」 茶倉が俺と繋がったまま、ひどく優しい声でなだめる。 「ホンマの俺、知りたいんやろ」 「ぁっ、熱ッ、やだ怖え、中へんっ、ぐずぐず、ずぶずぶ」 腹を内側からくすぐられる未知の感覚。千匹のミミズが蠢いてるようだ。そのミミズたちが俺の腹ン中を這いずり、耕し、性感帯に造り替えていく。 食い破られる恐怖にうろたえ、前立腺をねぶる蠕動に喘ぎ、わけもわからず絶頂する。 「ぁ――――――――――――――――――――――ッ……」 「まだ終わらん」 俺の体を裏返し、今度は後ろから責め立てる。背面座位。両手で乳首を搾りたてる傍ら、膝の間の剛直で貫く。 「ふぁっ、あっ、ぁっ、ぁっ、茶倉やだっ、俺ん中ドロドロっ、なんかいるっ」 ずくんずくん鼓動が響き渡る。尻の奥に穿たれた楔に仰け反り、肉襞を巻き返す抽挿に涎をまいて喘ぎ、触手のような繊毛が肉襞をぐちゅぐちゅかきまぜるのに戦慄く。 「頼む、ッは、助け、腹、んあぁっ、破けるっ!」 茶倉がうなじを噛む。肩甲骨を噛む。腹ン中じゃミミズもどきが暴れてる。 体の中に直接瘴気を注がれるような感覚。 気持ち悪い。気持ちいい。 どうしようもなく不浄で邪悪で背徳的で、だからこそ抜け出せない中毒性に溺れ、汗と涎と涙をだばだば垂れ流す。 気付けば陰茎にもミミズもどきが絡み付き、鈴口をいじっていた。 「ちゃくら、ッは、ほどいて、体おかしッ、ィきすぎて頭へん、くちゅくちゅやだケツほじんないで」 イきすぎて思考が働かねえ。前と後ろを同時に責められ、情け容赦なく追い上げられる。 今まで誰としたどんなセックスより強烈な快感。 遂には膝裏が不規則に痙攣しだし、前のめりに突っ伏す。 「俺の子孕んだ気分はどや、理一」 茶倉の声が遠く近く響く。眩暈がする。細い触手が陰茎に巻き付き、ぱく付く尿道口をこじ開ける。 目隠しをとるのが怖い。 自分の体がどうなってるか、確かめるのが怖い。 「よお肥えた苗床。悪霊どもが耕したんか?たんまり種付けしたる」 「ざけ、んな。はなせ」 耐え難い生理的嫌悪がこみ上げ、息も絶え絶えに反駁する。 「こんなの除霊じゃねえ……イカレてる……」 「腰振りながら強がっても説得力ないで」 「俺に何した?」 「教えたらん」 茶倉の声に嘲笑と憐憫が等分に含まれている気がしたのは錯覚だろうか。 鴨居が軋む。紐が食い込む。 茶倉が俺の片足を抱え上げ、無理な体勢で挿入する。真っ暗。泣いても叫んでも終わららねえ、解放してくれねえ。 「ふっ、ぐっ、うぐっ、ひぐ」 「色気のない声」 茶倉が無慈悲に腰を打ち付ける。またしても尻の奥で快感が爆ぜ、猥らがましくうねるミミズもどきが肉襞に潜っていく。 「あッ、あッ、ぁッ」 「聞いとるか理一。蓮は泥から咲くんやで」 来る。 みちみち媚肉がこじ開けられ、産道ができる。触手が尿道をくじき、前と後ろから同時に前立腺を押し潰す。 「出ちゃ、ぅあ、イきたくねッ、ふぁ」 「怖ない。いっぱい出せ」 一際強く腰を打ち付け、狂気と優しさが綯い交ぜの声で囁く。 すぼめた爪先で畳を探り、両手を縛り上げた紐をギシギシ引っ張り、下半身から巻き起こる官能の渦に飲み込まれる。 「ぁあぁあぁ――――――――――――――――――――ッ……」 意識が溶暗し、途切れた。

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