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第21話

茶倉と別れて母屋へ戻る。 佐沼邸は上空から俯瞰すると日の字型に配置されてる。俺と茶倉は西側の客室をあてがわれていた。東側では清美さん・文彦さんが寝起きしており、極力立ち入りは控えてきた。 「東側は古い方の母屋で、西側は明治初期に建て増しされたんだよな」 新しいったって築百年は余裕で経ってるが。 藤代さんが子どもを隠してるとしたら、西南北のどこかの部屋が怪しい。 「はあッ、はあッ、はあッ」 尚人さんが死んだ土砂崩れから一か月以上経過している。その間ずっと監禁されてんだとしたら健康状態が心配だ。藤代さんが飯を運んでたみたいっだが……。 最大の不安要素は、佐沼邸に滞在中に子供の泣き声を聞いてないこと。 生贄の霊、もとい生霊の縣は何度か目撃したが……泣き声を上げられないほど消耗してるのか、藤代さんが口を塞いだのか。 もし手遅れだったら……。 脳裏に浮かぶ最悪の想像を振り払い、スピードを上げる。 今日の昼間、藤代さんを見かけたのは日の字の中棒にあたる渡り廊下。彼女は東側に渡っていった。 屋敷のどこかにいるはずの子供の無事を祈り、ひた走る。飴色に磨き込まれた床板が軋み、焦燥感が募り行く。 昔ながらの日本家屋は暗く陰鬱で、太い梁や柱の影、天井の隅に闇がこごってる。あちこちから視線を感じるのはきっと気のせいじゃない。 大声で呼び回るのは自重した。藤代さんが尚人さんの共犯だとして、佐沼家の人間……清美さんや文彦さんも、白とは断定しかねるからだ。 角を曲がり廊下を突っ切り、走りながら情報を整理する。 土砂崩れの日を境に、佐沼家の面々は子供の泣き声に悩まされるようになった。 清美さんが幽霊の仕業と疑った声。この声は文彦さんに藤代さん、関係者全員が聞いてる。清美さんが誘拐に関与してるなら、自分に不利な事実を匂わせる意味が不明だ。 右手の数珠に合わせ、左手に巻いた組紐が弾む。渡り廊下を抜けて東側に渡り、そこから北辺を目指す。まずは子供の救出が先決、細かい事は後回しだ。 『お前は俺の足や。行ってこい』 壁越しに飛ばされた傲慢な命令を反芻、武者震いする。 アイツを頼るのはぶっちゃけ癪だが、今は猫の手も借りてえ。俺達がどうなるか、どうしてえのか、ぐだぐだすんのは後回しだ。 襖を開ける。空振り。また空振り。片っ端から襖を開け閉てしちゃ落胆し、すぐさま立ち直り次へ行く。 土蔵にて、清美さんの発言に違和感を持った。手錠の鍵をゲットできたのは幸運。ちょうどトイレに立った際、騒々しく転がり込んできた沖田さんと衝突したのだ。 言いてえことは山ほどある。相変わらず茶倉の真意は意味不明だし、その事で腹を立ててもいた。 でも、子供を助けるにはアイツの力が必要だ。 一旦首を突っ込んじまったらとことんやる、それが烏丸理一の流儀。 浴衣の裾を割り、袂を揺らし、ひたすら走りに走りまくり部屋と部屋とを行き来する。 「部屋数多すぎてしんどい。千と千尋の湯屋かよ」 汗を拭い呼吸を整える俺の背後を、足音が過ぎていく。寝間着をだらしなくはだけた文彦さんが、覚束ない足取りで徘徊していた。 歯の欠けた口元が紡ぐのは、すっかり耳に馴染んじまったわらべ歌。 「きゅうのいずみのそこふかく じむしのじごくがそこにある きゅうのいずみのそこふかく ちみもうりょうがわきいずる」 「そっちは行き止まりですよ」 壁に向かって突き進む奇行を無視できず、肩を掴んで制す。 すると文彦さんは極端に緩慢な動作で振り返り、茫洋とした表情で俺を見詰める。 「おお、帰ったか尚人。ワシが金を出した会社は上手くいっとるか」 俺を息子と間違えていた。チャンス。さりげなく調子を合わせる。 「あーそっちはぼちぼち」 「仕事相手はよく選べよ、裏切られたら元も子もない。あっちの方はどうじゃ、お前もそろそろ所帯を持っていい頃合じゃ。こないだ連れてきた娘とはどうなった、たしか明子とか言ったか」 尚人さんの前妻の名前。 「なあなあでやってます、はは」 「男は所帯を持って初めて一人前だからな。お前は佐沼家の次期当主、惣領息子。家を盛り立ててくれる女を選べよ」 「具体的には」 「よく子を産む身持ちの良い女。父や夫、息子に尽くす良妻賢母。いいか、けっして血を絶やすなよ。遡ること四十五代、佐沼家は日水村を司っておるのじゃ」 ……話してるのがだんだん苦痛になってきた。なんというか、家父長制度の権化だ。舅がこんな調子じゃ清美さんも大変だろうなと同情する。ともあれ、以前会った時と比べたら格段に意識がハッキリしていた。 「てか今の歌」 「村に伝わるわらべ歌じゃ。小さい頃教えたはずじゃが」 「思い出した、おきゅうさまの脅威を今に伝える歌だよな。おっかねえ歌詞でちびっちまった。続きとかあんの?二番でおしまい?誰が作ったとか知んねー?」 ここぞとばかり矢継ぎ早に質問。落ち窪んだ眼がうろんげに動く。 「尚人……よもや本当の歌を唄ってはおるまいな」 「本当のって」 「それも忘れたのか。どうしようもない奴め」 大袈裟な侮蔑の表情で嘆く。 「村に流布しておるのは偽物、隠れ蓑じゃ。正しい歌は代々佐沼の跡取りのみに継がれるしきたり。みだりに唄うのは禁忌」 廊下の室温が急激に低下し、空気が俄かに張り詰める。 柱の後ろから、梁の影から、天井の暗がりから。大勢の人間が俺と文彦さんの一挙手一投足を窺っている。 異様な気配が犇めく廊下で文彦さんと相対し、藤代さんの鼻歌を思い返す。 「もしかしてその歌」 俺は門外不出とされた、正しい歌詞を知ってる。 だしぬけに文彦さんの肩越しの空間が揺らぎ、小柄な人影が現れた。顔の上半分を目隠しで覆った子供……神出鬼没の案内人、縣。 行き止まりの壁の前に立ち、こちらを無言で見詰める。直感が閃いた。 「すいません」 文彦さんを押しやるように壁に近寄り、あちこちさわって叩いてみる。音の響き方でぴんときた、向こうが空洞になってる。羽目板の一部に手を添え、力を籠めて押す。どんでん返しの隠し戸。 「っとと」 勢い余ってたたらを踏む、辛うじて持ちこたえる。文彦さんが壁に向かってた理由が腑に落ちた。 全身に突き刺さる視線の圧が強まる。生唾を飲んで一歩踏み込んだ所、真っ暗闇が出迎えた。 袂からスマホをとりだし、ライトを頼りに探索を始める。朽ちた階段がぎしりと軋み冷や汗をかく。 「誰かいんのか。返事してくれ」 俺と入れ違いに縣は消えた。一段一段細心の注意を払い、深まる闇の底に下りていく。階段は急で幅が狭い、ちょっとでも気を抜くと踏み外しちまいそうで寿命が縮む。 藤代さんは隠し扉の存在を知っていた。文彦さんや尚人さんから聞いたのだろうか。何十年も働いてるなら自ずと察したのかもしれない。 左手で壁を探り、右手に持ったスマホライトで行く手を照らす。空気の質がまた変化した。やけにじめじめ蒸している。湿度が高いのだろうか、壁を撫ぜた手がしっとり濡れた。遠くで雫が滴る音がする。 『きゅうのいずみのそこふかく じぬしのじごくがそこにある きゅうのいずみのそこふかく ちみもうりょうがわきいずる』 脳内でエンドレスリピートされる歌。傷んだ階段が軋む音。風の音が妙に反響して聞こえてくる。 待てよ、風? 「マジかよ……」 階段の終着点には地下道が伸びていた。坑道とか隧道と言った方が正確だろうか。壁と地面はでこぼこした岩肌が剥き出しだ。ミミズの体表に似た色が気持ち悪い。 慎重にスマホを掲げ、風が寂寥と唸る横穴を照らす。一、二、三……全部で八。 「ひょっとして」 わらべ歌に登場する九の泉。 高僧に討伐されたおきゅうさまは、地下水脈を通ってどんどん逃げるも、僧侶の神通力で泉は次々枯れていき、遂には日水山の泉に封じられる。 じゃあ残りは? わらべ唄が本当なら、一から八までの泉も存在したはず。 地下道には纏わり付くような湿気が籠もっていた。岩肌剥き出しの天井からは絶え間なく雫がたれ、地面で弾ける。横穴から響く風の咆哮は亡霊の怨嗟の声に似ていた。 生贄が入る牢屋は、日水山の社だけだったのか? 一と九。最初と最後。はじまりと終わり。生贄を捧げる儀式が両方で行われていたのなら 直後、激しい震動が襲った。 「うわっ!」 咄嗟に頭を庇い突っ伏す。 また地震だ。今日だけで十回以上あった、どんどん大きくなってる。衝撃が足元を突き上げ、天井からぱらぱら小石が降り注ぐ。地下道に満ちる唸り声がさらに高まり、陰惨な響きを帯びる。 『縣を捧げよ』 『縣を捧げよ』 引き返す?否、前進あるのみ。もたもたしてたら清美さんたちが帰ってきて全部おじゃんだ。 現状尚人さんが誘拐犯ってのは俺と茶倉の推理、いや、妄想にすぎない。実際証拠を見付けるか子供を保護しなきゃ、通報した所で相手にされねえ。 瞼の裏の暗闇に、百日紅の下にたたずむ縣の姿を思い描く。 「必ず迎えに行くからな」 俺に助けてほしくて出てきたあの子を、見捨てるわけにいかない。 その決意と呼応するように再び縣が現れた。俺に先立ち、地下道の奥へ進んでいく。 「待て」 追いかける。 「茶倉は生霊だって言ってた。幽霊じゃねえのか?まだ生きてるのか?縣ってのは本名か」 逃げる。 「このさきにいるのか」 転ぶ。起き上がる。追いかけっこ。真っ暗な上に複雑怪奇に曲がりくねり、どの方角に進んでるかもわからねえ。化け物の胎内巡りをしてるみてえだ。 心細さに抗い、前行く背中に呼びかける。 「お父さん、お母さんに会いてえだろ」 縣が立ち止まり、見えない目で振り向く。布越しの視線を受け止め、力強く微笑む。 「大丈夫。会わせてやる。うちに帰す」 物言いたげに口を開き、また閉じる。半分布で覆われた表情を哀切に歪め、また走り出す。 何かまずい事言ったか?わからねえ。地下道の奥に暖色の明かりが見えてきた、もうすぐゴールだ。 手汗でぬめるスマホを握り直し、震える膝を意志の力だけで支え、地下を掘り抜いた広間に抜けた。 まず最初に目に入ったのは、壁の皿燭台に立った赤い和蝋燭。幻想的な炎に炙り出された地下牢。木製の格子の向こうじゃ、目隠しに猿轡を噛まされた女の子が泣いていた。 「ぐっ、ひぐ」 「待ってろ、すぐ出してやる」 どうりで声がしないわけだ。 頭に血が上りかけたが、外傷がないのを確認しホッとする。錠を引っ張り、蹴り付け、諦めて鉄の皿燭台を一個拝借し、おもいきり打ち付ける。 錆びた錠と皿燭台が火花を散らす。 また地震がきた。女の子がくぐもった悲鳴を漏らして縮こまる。縣は俺の傍らで作業を見守っていた。表情こそ冷静だが、成功を祈るように拳を握りこんでた。 「―ッ、ぐ」 衝撃に手が痺れる。十打目で錠が壊れ、牢の扉が開く。経年劣化で脆くなってたのが幸いした。 手のひらが裂けた痛みを堪え、女の子に駆け寄る。目隠しと猿轡を外すや、涙と鼻水で酷い事になった顔が露出した。間違いない、一か月前から行方不明の少女。ネットニュースに掲載された写真を思い起こし、浴衣の袖で頬の泥汚れをこそいでやる。 「名前は言える?」 「ひっぐ……ひぐ」 「慌てなくていいよ、落ち着いて」 「えぐ、ひぐッ、市立折原小学校四年一組、萩原えりなです」 「お父さん、お母さんの名前は」 「萩原透。萩原麻衣子」 ぼやけた蝋燭の光すら眩しげに瞬く。長いこと目隠しされてたらしい。 「ずっとここにいたの?」 「うん……お兄ちゃんは誰?お屋敷の人?」 「の、お客さんかな。でも大丈夫、えりなちゃんの味方だよ。君を牢屋に閉じこめたのは誰?花柄エプロンのお婆さん?」 「閉じ込めたのはおばあちゃん。さらってきたのはおじさん。私ね、雨が弱くなるまで学校にいたの。でも全然止まないから、仕方なく走って帰ったの。そ、そしたら黒い車が止まって……顔に押し付けられた布の匂いを嗅いだら急に眠くなって、起きたら目の前真っ暗で、動いてる車の中だった。あ、誘拐だってすぐわかった。先生が言ってたもん、通学路に変質者がシュツボツしてるから気を付けなさいって。うわー超ヤバいって慌てて、内緒でじたばたしてたら布が緩んで、今だ!って逃げ出したの」 「怪我しなくてよかった」 「道がぬかるんでたから」 えりなちゃんは尚人さんが運転する車から飛び下り、土砂崩れと前後して佐沼邸の敷地に逃げ込んだ。そこがまさか誘拐犯の生家とは思いもしなかったようだ。 パニック状態のえりなちゃんを保護したのは、案の定藤代さん。 「優しそうなおばあちゃんだった。おうちに連絡してあげるって家に上げてもらって、あったかいお茶を飲んだの。したら急に眠くなって、目が覚めたらここに」 「睡眠薬か」 夢見が悪い文彦さんに処方された分を、藤代さんが管理してたのだ。佐沼家の人々が全幅の信頼を置くお手伝いさんなら、合鍵だって持ってるはず。 「私、どれ位ここにいたの」 「脱出が先決。詳しい話は後で」 次の瞬間、蝋燭の炎がかき消える。 「!ッ、」 咄嗟の判断でえりなちゃんを突き飛ばし、牢の外に出す。入れ違いに扉が閉まった。錠は壊れてるはずなのに何故か押しても引いても開かねえ、完全に罠に嵌まっちまった。 「早く逃げろえりなちゃん、俺が捕まったって蔵に知らせてくれ!」 「誰がいるの?」 「ダチ!ムカツクけど頼りになる!」 「わかった!」 格子を揺すり立てて急かせば、えりなちゃんが唇を結んで走り出す。 少女が立ち去るのに安堵し、横を向けば縣がいた。 「お前、囮か」 地下牢に導いたのはわざと? 最初から捕まえるため? 茶倉は勘違いしていた。縣は生霊なんかじゃない、えりなちゃんとコイツは別人だ。 縣は男でえりなちゃんは女の子、そもそも性別が違ってる。 「おきゅうさまに言われて、俺を地下牢に引っ張り込んだのか?」 釈明はせず、白く強張った顔で虚空を見据え続ける。 「初日から屋敷に付いてきたのも、ちらちら姿を見せてたのも、全部ここに誘き出すのが目的だったのか。やっぱ生贄の幽霊?そうなのか?死んでからも何十年何百年、ずっと呪縛されてんのか」 怒りを堪えて握り締めた拳から血が滴り、地面に染みていく。 「そんな小せえなりしてずっと」 ずずずずず、ずずずずず。 おもむろに気配が増えた。饐えた匂いが籠もる地下牢の中、蝋燭が消えた闇の底を何かが這いずっている。湿った肌が裸足の脚を掠め、背後に威圧が殺到する。 嫌だ。怖ェ。振り向けねえ。見たらきっと後悔する。格子を掴んで俯く俺の横から、縣が消える。 「縣っ!」 ヒステリックに名前を呼んで振り向く。土色の肌をした巨大なミミズが縣の足首に巻き付き、地面に引きずり倒していた。 縣の顔が恐怖と苦痛に歪む。俺の顔も引き攣る。 地下牢にいたのは筆舌尽くし難くおぞましい異形。肉肉しい質感の肌には目も鼻も口もなく、肉瘤じみた節だけが等間隔に存在する。蠢く触手が瞬く間に着物を剥ぎ、まだ毛も生えてない未成熟な肢体を暴き、あられもなく裾を割って潜り込む。 凌辱のはじまり。 夥しい触手を持った巨大ミミズが暴れる縣の手足に絡んで宙吊りにし、もげんばかりに四肢を開く。 『かはっ、ぁっが、ひぐっ』 醜悪な触手が少年の脚に纏わり、腕を締め上げ、大胆にひん剥いた臀を鞭打ち、かと思えばねっとり淫猥になで回す。 前に回り込んだ触手は口に潜り込み、じゅぷじゅぷ粘膜をかきまぜ喉奥を突く。 『やっ、ぁあっ、ンあっ』 牢を占める触手が幼い下半身をもてあそび、陰茎の莢を剥く。 赤い亀頭に浮かんだ透明な汁をすくい、敏感な裏筋や睾丸に塗し、ちゅくちゅくしごき立てる。続いて赤ん坊の腕と同径の触手が肛門をこじ開け、ずぷずぷ入っていく。 『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んんん゛ッ』 激しい抽挿に弾む体。 苗床を耕す触手。 目隠しの下半分が涙と汗と洟汁で溶け崩れて弛緩し、嗜虐の極みの痴態をさらす縣。口を塞がれたせいで喘ぎ声はくぐもっていた。 『んぐ、んっんっん゛っ』 触手の先端がくぱァと開花し、無数に蠢く繊毛が鈴口を覆い、じゅるじゅる吸い立てる。 目隠しに遮られなお赤らむ顔は、子供ながら残忍な責めに感じ乱れていた。 貪欲に這い回る触手が着物の合わせ目から覗く突起をくすぐり、陰茎を擦り、ゴリゴリ尻を犯す。突き上げの都度仰け反り、前髪がばらけ、剥き出しの肌が薄紅に染まっていく。 「やめろ!」 怒りが恐怖を上回り、頭空っぽでとびかかる。縣の右足に絡み付いた触手を鷲掴み、引っぺがそうと踏ん張るものの、まるで爪が立たない。 「その子を食いもんにすんのはよせ!」 何十年何百年、おきゅうさまに使われてきたんだ?呪われた牢の中で、好き勝手もてあそばれてきたんだ? 「まだガキだろ、それを無理矢理……やめろって言ってんのが聞こえねーのかデカミミズ!」 上の口も下の口も一杯で死ぬほど苦しそうだ。本当に死んじまうんじゃねえか。 『んっぐ、ぁッぁあっあ』 ぶっとい触手が後孔をこじ開け、直腸の窄まりを押し広げ、狂ったように体奥を突きまくる。 下っ腹が妊婦みてえに膨らんでボコボコ動き回る。 「村の伝統なんか知ったことかよ、おきゅうさまなんざくそくらえだ」 化け物にいたぶられるガキを救いたい一心で触手の表面を引っ掻く。勢いよく薙ぎ払われ転倒、顔と膝を擦りむく。再び立ち上がり、今度は噛み付く。土の味が口一杯に広がり、えずく。 触手がよってたかって少年を逆さ吊りにする。 縣の前髪が垂れ下がり、Vの字開脚にされた股ぐらに最も太い触手がずぶずぶ沈んでく。 『んん゛ッん゛ッ、んんん゛――――――――――――ッ』 逆さ吊りから串刺しにされた縣が、押し殺した絶叫を放って悶絶。 赤く腫れた乳首や尖りきった陰茎を触手が搾りたて、口に入った触手は喉で蠢き、滑らかな下腹が膨らんではへこむ。調子にのりくさった触手が吊るした縣をがくがく揺さぶる。 尻に深々刺さった触手が脈打ち、膨らむ。種付けの準備。 「縣ッ!!」 絶叫し、手を伸ばす。目隠しが斜めにずれ、覗いた片目で俺を見据え、向こうも手を伸ばしてくる。 凍り付いた瞳に映り込む必死の形相。 背中一面に刻まれた傷痕に既視感が疼くも深く考えはせず、茶倉に貰った数珠が神々しい輝きを増す右手でもって縣への接近を阻む触手をむしり、ちぎっては投げちぎっては投げして進んでいく。 「その子をはなせ!」 数珠の光に灼かれた触手が塵と化して霧散する。 目一杯伸ばした左手の先端が縣と触れ合い、また離れ、今度こそしっかり掴む。 「俺がきたからもうだいじょうぶ」 縣の片目がまたもや見開かれ、安堵と希望に潤む。数珠の力で弱体化した触手を握り潰し、組紐を巻いた左手で縣の手を握り締め、高らかに宣言する。 「ちまいのじゃ食いでがねーだろ。耕しに来いよおきゅうさま、遊んでやる!」 地下全体が激しく震動し、同心円状の亀裂を生じて足元が陥没する。地面を破砕し飛び出た巨大ミミズが、俺の脚に巻き付いて地中に引きずり込んだ。

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