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第31話 『また明日』
森の家に帰り着いたとき、夕刻には早かったが、レヴィンは帰ることにした。
夏の照りつける陽射しの下に長時間いたせいか、疲れを感じていた。
クオンが「ちょっと待ってろ」と言うので、椅子に座ったところだ。
テーブルの上には、レヴィンの鞄に入れられていた物が出されていた。餌の木箱、火打石、竹串、岩塩、針の入った道具箱。宮廷では目にすることもなかった。
レヴィンは黒みがかった火打石を手に取った。今でこそ石を打てば火花を散らせ、火種を作ることができるようになったが、コツを掴むまで時間がかかった。
香草茶を入れるため、湯を沸かしたくてクオンに手本を見せてもらったときは、自分もすぐにできると思った。簡単そうに見えたが、実際は難しかった。
クオンと出会ってまだ三か月しか経っていないのに、遠い昔のように感じる。
レヴィンが手の平で火打石を転がしていると、クオンが魚籠 を持って戻ってきた。
「魚、持って帰れ」
見ると籠の半分以上、魚が入っている。釣果のほとんどだ。レヴィンは首を振った。
「これはクオンが釣ったものだ。もらえない」
「おまえにじゃないよ。家の人に。昼食のお礼。あと、いつもお菓子もらってるから」
菓子というのは、薬草茶を売りに近隣の村に行くとき以外にもモーリスは差し入れだと言って、菓子を持たせてくれていた。クオンはいつもおいしそうに食べていた。
有無を言わさず魚籠を押し付けてくるので、レヴィンも受け取った。
レイトンの周辺は陸続きで海がない。正直、鮮魚は珍しかった。
「ありがとう。喜ぶと思う」
クオンはうなずくと、もうひとつ小袋を出した。
「こっちはおまえに。今日風呂に入るとき、いれるといい」
「これは?」
「炎症を抑える薬草だ。日焼けしてたから、今夜痛むかもしれない」
レヴィンは自分の腕を見た。確かに肌は赤みを帯びていて、熱も少し持っていた。
レヴィンはクオンの気遣いにうつむきながら、礼を言った。
自分の体を気にしてくれたことがうれしくて、気恥ずかしかった。
鞄を背負い、魚籠を下げ、玄関を出る。
「また明日な」
家の中からクオンが言ったので、うなずいた。
ーまた明日ー
それはとてもいい言葉だとレヴィンは思った。
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