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第32話 『香草茶づくり』
眩しかった夏が終わり、朝夕が涼しい秋がやってきた。
この時期、クオンは薬草茶づくりと並行して香草茶づくりを始めていた。香草茶はあそびだと言っていたが、本格的に新作を作りたくなったらしい。
レヴィンは日々、試飲をしていた。
はじめ「ちょっとこれ飲んでくれ」と言われたときは、兎配合茶を思い出し、また何かやってしまったのかと思った。
レヴィンがなかなか飲もうとしないので、クオンも兎配合茶のことを思い出したのか、笑って言った。
「ちゃんとしたやつだって。試作だから感想を聞きたい」
と、気軽に言いながらも顔はまじめだった。
レヴィンは出されるものをいくつか飲んだが、今あるもの以上に良いと思えるものはなかった。
「おいしくないわけではないんだが、また飲みたいかと言われると、そうでもない」
正直に言ってくれというので、正直に言ったら、クオンが落ち込んだ。
「ダメか……」と黒髪を掻きながら、また調合の部屋に戻っていく。
クオンと出会って五か月が過ぎていた。
『香草茶はあそび』の言葉通り、片手間に作っているように見えたので、どんな心境の変化なのか気になったので、あるとき訊いてみた。
「前にグラハム先生が薬の値段を上げたらどうかって言ってたの、覚えてるか」
トレイの村で練薬を分けたときのやり取りのことだ。もちろん覚えている。レヴィンはうなずいた。
「薬草関係の値段を上げるつもりはないんだけど、高値で売ってもいい物はないかって考えたんだよな。
そしたら、香草茶ならいいかと思ってさ。俺は庶民に飲んでもらいたいと思って、買いやすい値段にしてたんだけど、評判の良いやつは、貴族が買い占めてるって聞いたから」
評判の良いやつというのはレヴィンも気に入った紅茶風味の香草茶のことだろう。一週間後には売り切れていたあれだ。
「貴族向けに高い値段でいい物を出しながら、安い値段の物も売っていこうと思って」
その考えはレヴィンも賛成だった。クオンの香草茶は飲みやすくておいしい。もっと高くしても売れるだろう。
そのことを伝えると、クオンはだからレヴィンの意見を聞きたいんだと言った。貴族の好む味にしたいのだそうだ。
「だったら紅茶で何か作ればいい。ミルクを入れても合う、渋みの強いものがいいと思う」
紅茶は貴族が好んで飲むもので、上流階級には一般的だ。値段がすこぶるよいので、庶民には手が出しづらい。逆に香草茶は貴族にはあまり好まれていなかった。
貴族で香草茶を飲む者は体を壊した者か、健康を気にする者くらいだった。紅茶なら間違いない。
ところがクオンは難しい顔をした。
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