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第33話 『話し合い』

「紅茶は無理だ。大量に仕入れることはできないし、それをするなら元手もかかる」  クオンは残念そうに言った。 「自分で作れないのか?」 「自作はできない。手間がかかりすぎる」  紅茶と香草茶は似ているようで、作り方が違うという。それに、とクオンは言った。 「紅茶づくりに時間を取られてしまうと、今度は薬草茶を作れなくなってしまう。そうなったら本末転倒だから、手軽に作れるものがいい」  今、店に(おろ)している香草茶には、少量の紅茶に香草を混ぜて香りのいい物に仕上げており、その紅茶は香草店の店主から練薬と引き換えにもらっているものだそうだ。  紅茶が基本となると話は変わってくるらしい。    レヴィンは下唇に指を当て、つぶやいた。 「紅茶が安く手に入ればいいということか」  先月面会した商人の中に紅茶を扱っている者がいたはずだ。 「なんとかなるかもしれない」  顔を上げたレヴィンに、すかさずクオンが言った。 「おまえが金を出すというのは却下だからな」 「わかっている。商売の話だ」  クオンはちょっと疑わし気に見てきた。心外である。  レヴィンは「商売」と口にして、ふと思った。 「なにも新作を作らなくても、今あるやつを高値で出せばいいんじゃないか」 「だから、それは嫌なんだって。庶民向けに出しているものを釣り上げるなんて……」  レヴィンは最後まで聞かずに手で制止した。 「そうじゃない。レイトンでは今の価格のままで売ればいい。そうではなく、別の街、例えば王都に高値で出すんだ」 「王都……」  クオンは思いつきもしなかったという顔をした。 「わた……」  レヴィンは「私」と言おうとして、言い直した。 「俺は今まで王都にいたが、ああいう香りの立つ紅茶はなかった。味もいい。香草茶であっても高値で売れる。現にレイトンでも貴族が買っているのだろう?」  宮廷にいたレヴィンは自信をもって言ったが、クオンは考える素振りをして首を振った。 「いや……やっぱり、今のやつはこのままでいい。出すなら新作の方だ」  なにかこだわりがあるようだ。    レヴィンも単なる思い付きだったので、無理強いするつもりはなかった。 「それなら、紅茶を手に入れるのが先決だな」  レヴィンは立ち上がり、商人に交渉しようと帰ろうとした。すると、 「レヴィン、待ってくれ」 「?」  振り返ると、クオンは真顔で言った。 「帰るなら雑草抜いてからにしてくれ」  相変わらずレヴィンはクオンの小間使いだった。

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