40 / 89

第40話 『友人のままで』

 一夜明けて、レヴィンは森の家に行くかどうか迷った。    クオンが誰を想っているか気づいた以上、自分を見てくれないことがつらかった。しかしここで行かなければ、次に会うときがさらに気まずくなってしまう。  あれこれ悩んでいるうちに陽が高くなってしまい、モーリスから「今日はお出かけにならないのですか」と言われ、勢いで「行く」と言ってしまった。    樹木が色づき始めた林道を沈痛な面持ちで歩いていく。    会いたいようで会いたくない。    自然と歩みは遅くなり、森の家に着くには時間がかかった。玄関前に立ったときは緊張した。平静な態度でいられるよう、深呼吸をする。    そっと扉を開けると、クオンはテーブルについていた。  玄関から光が射し込むと、ぱっと顔を上げた。  レヴィンを見て、安堵したような表情をした。家に入ると、クオンはテーブルに目を落とした。 「もう来ないかと思った」  テーブルの上には、昨日食べ残した焼き菓子が広げられていた。 「これおいしかったから、一人で食べるのがもったいなくてさ。待ってたんだ」  うつむき加減で、かすかに笑う。不器用な笑みだった。  秋風が強く吹き、小窓がカタカタと震えた。  レヴィンはクオンの秘めた想いを暴いてしまった。  男の友人を好きなことを知られ、いつも来るはずの男が来なかったら、避けられたと思ったかもしれない。  どんな思いでここに座っていたのだろうかと思ったら、切なさで胸が締めつけられた。  レヴィンは椅子をひいた。 「遅くなってすまない。一緒に食べよう」  腰を下ろすと、クオンは顔を伏せたまま立ち上がり、 「新作の紅茶、入れてくる」  と、台所に向かった。  レヴィンは皿に乗せられた焼き菓子を見つめた。    思い悩んだが、来てよかった。    クオンが誰を好きだろうと、今日は自分を待っていてくれたのだ。  ロッドのことで苦しくなったら、話を聞いてあげよう。  たとえ話せなくても、誰かがそばにいるだけで救われることもある。かつて自分にとって、リウがそういう存在だった。    レヴィンは友人として彼のそばにいようと思った。    そして、クオンがいつか新しい恋をしようと思ったとき、自分を見てほしいと言おう。  今はまだ無理でも、そのうち、そんな日が来ると信じたい。    レヴィンは焼き菓子を口にした。    自分の手からパクリと食べてくれたクオンを思い出し、チリッとする胸の痛みを抑え込む。   焼き菓子で口の中が渇いた。    クオンが紅茶を持って来てくれると、レヴィンは昨日の話はなかったことのように振舞った。    いつもの二人に戻るまで、そう長い時間はかからなかった。

ともだちにシェアしよう!