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第40話 『友人のままで』
一夜明けて、レヴィンは森の家に行くかどうか迷った。
クオンが誰を想っているか気づいた以上、自分を見てくれないことがつらかった。しかしここで行かなければ、次に会うときがさらに気まずくなってしまう。
あれこれ悩んでいるうちに陽が高くなってしまい、モーリスから「今日はお出かけにならないのですか」と言われ、勢いで「行く」と言ってしまった。
樹木が色づき始めた林道を沈痛な面持ちで歩いていく。
会いたいようで会いたくない。
自然と歩みは遅くなり、森の家に着くには時間がかかった。玄関前に立ったときは緊張した。平静な態度でいられるよう、深呼吸をする。
そっと扉を開けると、クオンはテーブルについていた。
玄関から光が射し込むと、ぱっと顔を上げた。
レヴィンを見て、安堵したような表情をした。家に入ると、クオンはテーブルに目を落とした。
「もう来ないかと思った」
テーブルの上には、昨日食べ残した焼き菓子が広げられていた。
「これおいしかったから、一人で食べるのがもったいなくてさ。待ってたんだ」
うつむき加減で、かすかに笑う。不器用な笑みだった。
秋風が強く吹き、小窓がカタカタと震えた。
レヴィンはクオンの秘めた想いを暴いてしまった。
男の友人を好きなことを知られ、いつも来るはずの男が来なかったら、避けられたと思ったかもしれない。
どんな思いでここに座っていたのだろうかと思ったら、切なさで胸が締めつけられた。
レヴィンは椅子をひいた。
「遅くなってすまない。一緒に食べよう」
腰を下ろすと、クオンは顔を伏せたまま立ち上がり、
「新作の紅茶、入れてくる」
と、台所に向かった。
レヴィンは皿に乗せられた焼き菓子を見つめた。
思い悩んだが、来てよかった。
クオンが誰を好きだろうと、今日は自分を待っていてくれたのだ。
ロッドのことで苦しくなったら、話を聞いてあげよう。
たとえ話せなくても、誰かがそばにいるだけで救われることもある。かつて自分にとって、リウがそういう存在だった。
レヴィンは友人として彼のそばにいようと思った。
そして、クオンがいつか新しい恋をしようと思ったとき、自分を見てほしいと言おう。
今はまだ無理でも、そのうち、そんな日が来ると信じたい。
レヴィンは焼き菓子を口にした。
自分の手からパクリと食べてくれたクオンを思い出し、チリッとする胸の痛みを抑え込む。
焼き菓子で口の中が渇いた。
クオンが紅茶を持って来てくれると、レヴィンは昨日の話はなかったことのように振舞った。
いつもの二人に戻るまで、そう長い時間はかからなかった。
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