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第42話 『激昂』
フレディが帰った後、モーリスは主人の部屋に顔を出した。
「うまくいったようですね」
「ああ。モーリスの助言のおかげだ。ありがとう」
新作の紅茶を誰に持っていくか、その選定をしたのはモーリスである。
主人は買ってくれそうな貴族を三家あげて、意見を求めてきた。いずれも主人が一度は面会している家だ。
そのうちの一家にヨーク家も入っていた。三家とも優雅な紅茶を好みそうな主人たちである。選定の目に間違いはないと思った。
だが、モーリスはあえて首を振った。ヨーク家以外の二家はダメだ。
モーリスはこの街の貴族の力関係を熟知している。街の有力貴族を差し置いて他家に持っていけば、後々面倒なことになる。
ここは断られるのを前提に選定すべきだと助言した。誰に一番先に声がかかるか、貴族社会では重要なことだった。
その上で、お茶会好きが周知されているヨーク家を入れておけば、他家も納得する。
ヨーク家の女主人は夫を早くに亡くした老婦人だ。ご婦人方を集めてお茶会を開くのが趣味だった。
彼女がクオンの紅茶をお茶会で披露し、話題になってくれれば、新しい客も紹介してくれるだろう。そう提言した。結果、主人は満足してくれたようだった。
主人は早くクオンさんに知らせたいのか、出かける雰囲気を出したので、モーリスは引き留めた。訊きたいことがあったのだ。
「レヴィン様、スタンフォード家というのはご存知でしょうか」
立ち上がりかけた主人の動きが止まる。
「スタンフォード? スタンフォードがどうした」
眉を潜めているところを見ると、どうやら心当たりはあるらしい。モーリスはこの家名を知らなかった。王都の貴族だろう。
知っているなら、とモーリスは用件を伝えた。
「レヴィン様にお会いしたいと」
瞬間、主人の形相が変わった。
「断れ!」
モーリスは主人が激昂したことに驚いた。
「スタンフォードが何を言ってこようが、すべて断れ! 絶対に取り次ぐな!」
温厚な主人がここまで怒りを露わにするとは、これはただごとではない。
モーリスは唾を飲み、「かしこまりました」とだけ答えて退室した。
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