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第48話 『星物語』

 クオンが寒そうに毛布を引き寄せ、体を寄せてきたので、レヴィンは酒の入った瓶を開けた。  ひとくち飲んで、中身を確かめる。 「蒸留酒だ。温まる」  クオンに渡すと、少し匂いを嗅いでから飲んだ。 「おいしいな」  寒さと美味さが相まって、クオンはコクコクと遠慮がなかった。  たまにレヴィンに返すが、レヴィンがひとくち飲んで渡すと、ふたくち飲んで返してきた。  酒が好きなのだろうか。  残りが三分の一ほどになると、クオンは手持無沙汰のように瓶を軽く振っていた。まだ夜も更けたばかりである。  焚火の爆ぜる音が虫の音と重なって聞こえる。  レヴィンは夜空を見上げた。満天の星空だった。月のない夜だったので、星の輝きが際立ち、美しい。  その中でレヴィンは、ひと際明るい星を見つけた。  まだ秋だがもう出ていたのか。 「クオン。あの星、知っているか」  東の空の低いところに浮かぶ、白く輝く星を指した。  冬の星なので、夜が更けてもまだ地平線の近くにある。クオンは指さした先に視線を送った。 「あの山の少し上にある明るい星とその右下あたりにある、ちょっと小さい黄色い星。あれは兄弟星なんだ」  レヴィンが言うと、クオンは知っていると言った。 「知っているのか? なら、星の神話は?」  蒸留酒が効いているのか、クオンは眠たそうに目をとろとろさせながら言った。 ーひときわ輝く兄星は、強い力で民を率いていた英雄だった。逆らう者は誰もいなかったので、だんだん横暴になっていった。  弟星は兄星のように民衆を惹きつける力はなかったが、民に混ざり、つねに民と共にあった。弟星の周りには次第に多くの民が集まっていた。  あるとき、敵国が襲ってきた。光り輝く兄星はすぐに見つかり、殺されてしまう。だが弟星は民の中にいて、民が弟星を匿ったため、敵国は弟星を見つけることができないまま、国を乗っ取った。  残虐非道な敵国の支配に、民に守られてきた弟星は仲間を集め、民と共に立ち上がり、国を取り戻し、新しい王になったー  レヴィンは驚いた。語りたかったことを全部言われてしまった。 「よく知っているな。どこで聞いたんだ?」    寄り掛かるクオンに顔を向けると、今にも眠りそうな顔で囁くように言った。 「さあ……どこだったかな」  それだけ言うと、クオンは(まぶた)を閉じてしまった。

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