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第50話 『一緒に見れて』

「レヴィン。起きろ」  肩を揺すられて、目を覚ました。  空はまだ青闇だったが、うっすらと白み始めている。明け方の冷気に体が震えた。 「もうすぐ咲くぞ」  クオンが湖畔に向かったので、後を追った。湖を前にして立っているその隣に並ぶ。湖面は薄青く凪いでいた。  湖のほとりにある草むらは、ところどころに白いものが混じって見える。それが徐々に増えてきているように思えるのは見間違いではあるまい。 「あの白いのが、幽延草なのか?」 「そう」  クオンは多くを語らなかった。ただ、じっと待っていた。  東の空がしだいに明るくなり、日の出までもうまもなくというとき。 「あっ」  レヴィンは思わず声を上げた。  ねじれていた蕾が一斉に開き始めたのだ。咲いた花びらは真っ白だった。  湖畔に純白の花が次々と咲き誇っていく。  朝陽が一条、湖面に走った。輝き照らされ、夜露に濡れた真白い花がきらきらと光っている。  それは日の出の前のわずかな時間の出来事。 「……綺麗だ」  幻想的な光景に、レヴィンにはそれ以上の言葉が出てこなかった。 感動で言葉を失っていると、クオンがつぶやいた。 「一緒に見れてよかった」  横を向くと、クオンは踵を返していて、顔を見ることができなかった。 「花だけ摘んでくれ。袋、持っていくから」  背中越しに言われ、レヴィンは幽延草を摘みに行く。    腰を下ろし、蝶のように白く咲く花を触った。とても愛おしくなり、優しく摘んだ。    持ってきた袋がいっぱいになるだけ花を摘むと、クオンは帰り支度を始めた。    陽が昇ると花が閉じてしまうというのは本当で、時間が経つにつれ、蝶のように開いていた花びらは次第に閉じ始めていた。  名残惜しく幽延草を見ていたら、まだ閉じかけていない花を見つけた。他のものより茎が太く、花びらもまだしっかり咲いている。レヴィンはそれを根こそぎ引き抜いた。  今日の記念に持って帰ろうと思った。  来年も一緒に来られるように願いを込めて、ハンカチにそっと包んだ。

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