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第2話
これは、夏休みのある晩の一場面。
現役高校生であり、覆面駆け出しYouTuberとしてホラーチャンネル『真夜中パーティ』を運営する生駒秀一(いこま しゅういち)は、幽霊が出るのではないかと噂の廃校舎を訪れていた。
匿名掲示板にアップされていたのは、一枚の写真と一言とのみ。
『この小学校には近付くな』
写真に映っているのは明らかに朽ち果て使われていない小学校の校舎。
近付くなと言われたら、調べたい、近付きたくなるのがネット民である。またたくまに場所、小学校の名前、数年前に廃校化したことなどが暴かれた。
ホラーチャンネルを運営する身としては放ってはおけないと、情報が流れてすぐ生配信を決行したのだ。
秀一がこんな風に生き生き積極的に活動しているのを知ったら、同級生たちは驚くだろう。
普段の秀一は、おどおどしていて大人しい。
原因は、秀一の見た目である。
秀一は男子だが、ふわふわな栗色の髪、色白の肌、大きくてくりっとした瞳の持ち主だ。
おまけに背が低く、筋肉なんてほぼないヒョロガリ。
よく女子に間違えられる。
容姿をネタに弄られるのは当たり前、性的な悪戯をされたことすらあった。
人間が怖い。人が怖い。
人間は、信用出来ない。
一時期は不登校にもなったが、そんな秀一でも、正体を隠しネットを通しての自己主張ならちゃんと出来たのである。
いつか有名YouTuberになり、自分を苛めた奴らを見返してやりたいーー
秀一には、そんな野望があった。
校内に足を踏み入れる秀一。長く人の訪れがないせいか、空気が澱んでいる。
田舎の使われなくなった校舎など、オカルト好き以外はなんの用もない場所だから仕方ない。
「まずは階段の怪談を確かめにいきましょー。上り降りするカ・イ・ダ・ンね!」
階段にまつわる怪談は以外と多い。十三段目を踏むと黄泉の国に連れて行かれるとか、真夜中は踊場の大きな鏡に姿が映らないとか。
廊下を歩く足音だけが響く。
一番奥のどん詰まりまで行き階段を上る。
二階から三階に上がる途中の踊り場に大きな鏡があった。
「お、鏡がありますね。僕が通ってた小学校の踊り場にはなかった気がするけど、あるところには本当にあるんだなあ」
懐中電灯で鏡を照らすが、汚れ曇った鏡でも秀一の姿は映っていた。
右手にハンディカメラ、左手に懐中電灯。モスグリーン薄手のパーカーにジーンズ、背中にはリュック、という出で立ち。
リュックには水、おやつやタオル、いざ怪我をした時のための消毒液や絆創膏が。
「残念!鏡にはフツメンな僕が映っているだけです」
フツメンというか女顔だ。子供の頃は可愛い可愛いと持て囃され、スカートを履かされたりしたが、この歳になるとただひたすら男らしさに欠ける顔としか言いようがない。
長く見ているのが嫌だから目を逸らした。その時。
『……君』
声が聴こえたような。キョロキョロ辺りを見渡す。秀一と同じように、オカルトスポットを見に来た人がいるのだろうか?
辺りを照らすが誰もいない。
『君、もう少しこっちに…』
また、聴こえた。しかし、やっぱり誰の姿もない。
オカルトなんか信じない秀一ではあるが、不気味な雰囲気に飲まれて幻聴を聴いたのだろうか。
肌がそわ、と粟立つ。鏡から距離を取る。
「気のせいか。ーーいや、霊がいて、僕に話しかけたのかもしれません!
霊さん、シャイです?遠慮せずに来て下さいよ。僕、あなたと友達弐なりたいなあ」
なんて軽口を叩いておく。
きっと気のせいだ。幽霊なんているわけがない。
しかし、マイクは音を拾っただろうか。なんの音かは気になるから、後で動画をチェックしよう。そんなことを考えながら秀一はそそくさと三階に移動した。
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