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第3話
「次は学校の怪談の定番、トイレに向かって見ます。美人の花子さんがいたらナンパしちゃおうかな」
人生でナンパなど一度もしたこともないし、そんな度胸もないが、配信ではこんなことを言う。
秀一は恋愛に無縁に生きている。
高校生、年頃であるが故、女の子に興味はあるがいかんせんモテない。
容姿もさながら趣味も影響している。
秀一の趣味は研究だ。兎に角気になった事をとことん調べ掘り下げ、考えるのが好きだ。
しかも今秀一がハマッているのはオカルト研究である。
ホラーチャンネルを流行らせるためと見識を広めていたらいつの間にかあれこれ知るのが楽しくなっていた。
オカルトヲタクなんて古今東西見渡してモテるはずがない。
だが、秀一には別の顔がある。
それがYouTuberのシュウだ。
YouTuberシュウとして話す時は別人格、ペルソナを被る。
秀一はモテなくともシュウはモテるはずだ。
秀一は引っ込み思案でも、シュウは積極的だ。
秀一は臆病でも、シュウは勇敢で男らしい。
要するに憧れの、なりたい自分を演じているのだった。
「トイレの花子さんの話、皆さん知ってます?三回ノックして『花子さんいます?』て問うと返事がありトイレに引きずり込まれるというのが基本なんだけど」
廊下を歩いてトイレ入り口前に到着。
トイレは男子用、女子用の二つがあるようだ。
今は使われていないのだから女子トイレに入っても構わないのだろうが、やはりなんとなく憚られる。
秀一は男子トイレに入った。
個室が三つ、小便器が三つ。そして洗面台が三つ並んでおり、奥には窓がある。
床のタイルは汚れているし、個室の扉が壊れている箇所も。
一つ一つ扉を開いて懐中電灯で照らすが、ただ汚いだけで何もない。あるはずがない。
勿論、その様子も丁寧に撮影する。
「男子トイレにはヨースケ君がいるとか、花子さんにボーイフレンドの太郎君がいて、体育館でバスケしてるとかバリエーションがあって。体育館とかもうトイレ関係ないじゃん?」
個室を覗き終わったら手洗い場を見る。
ひび割れて曇った鏡を懐中電灯で照らした。また、自分が嫌いな女顔が映った。
そしてその背後にーー薄ぼんやり黒い影が。
「ひっ!」
ビックリして撮影用のカメラを落としそうになった。危ない、危ない。お小遣い半年分を貯めて買ったものなのに。
よくよく鏡を覗いて見るとただの汚れなのがわかった。ホッとして胸を撫で下ろす秀一。
シュウなら驚かなかったろうか?
生配信中なのを思い出して慌てて取り繕う。
「あーすみません、ちょっと鏡に霊が映ったような気がして。もしかして花子さんかな?いるなら返事してね?」
オカルトなんて、ファンタジーだ。人の恐れや興味が産み出した産物でしかない。
人の認識なんてあやふやだ。
あるかもしれないと思えばそう見えるし、あって欲しいと願えば存在することもある。
認知も大事だ。知らない存在はそもそも認識できない。知らないからだ。
しかし、配信の人気を上げるためにオカルトの噂話を研究し尽くした秀一の頭には情報がいっぱい詰まっている。
そんな秀一だから、ないはずのようなものがあるように見えた。きっとそうだ。
さっきの踊り場での声も同じだ。
霊なんているはずないんだから。
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