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第4話
秀一はリスナーの目をひく美味しい映像を撮る事以外に興味はない。
廃校舎を歩き回り、適当に怖がる動画を撮るだけでそれなりの再生数がいくはずだ。
「男子トイレなんだから花子さんはいないって?だったらヨースケ君、他の霊でもいいんだけど。おーい、出てこい」
本物を撮ることが出来たらうなぎ登りの人気を得るだろう。
が、ネットに上がっている大半の、本物の霊を撮影した!などというやつはフェイクだ。
騙しからかい他人を馬鹿にする輩は沢山いる。
そういうのを秀一は好きではない。
あくまでも、ありのままを撮影していく。
鏡の下の洗面台には赤黒い水が貯まっていた。錆が滲んでこうなったのだろうか。
怖さ満点なので絵面だからバッチリ撮影する。
「まるで血を吐いたみたいだな」
つい、演技ではない素の声で感想をぽつり。
踊り場の時もそうだったが、何か嫌な感じがする。
信じてはなくとも、理屈ではない生理的嫌悪は存在する。
何故か背中がぞくぞくとするのだ。
そろそろ移動しよう。もしかしたらこの場所には本当に何かがーー
トイレから出ようとした時だ。
秀一に、異変が起きる。
足首が急に重たくなった。鉛が張り付いたような。まるで何かが絡み付いたようなーー
「えっ」
入る時にトイレ内は懐中電灯で照らしたし、隅まで見たはずだ。足に引っ掛かるものなど、紙くずすら何もなかったはず。
ならば、この重さは何か。
恐る恐る足元を照らす。
するとーー
「ぎゃあっ!!」
足首に巻き付いているのは黒くて長い無数の髪の毛の束。
それは真っ直ぐトイレの個室へと伸びている。
まるで秀一を捕まえようとするように。
『ねえ…』
声がする。じっとりした女の声。
しかしトイレには誰もいなかった。いなかったはずだ。
『こっちに来て…』
声はすれど、見えるのは髪の毛だけだ。それは秀一をがっちり捉えている。
「あ、あ、あ」
足を前に引っ張る。
が、髪の毛はギチギチ秀一の足首に食い込むだけで切れやしない。
秀一の足と個室を綱引きの縄のように結ぶ髪の毛の束はピンと延びきり張りつめた。
あの髪の毛の先に、何が居るのか。
トイレの個室の中に。
こんなに長い髪の毛の持ち主とは。
秀一がもう少し早くコメントに気付いていれば異変を避けられたかもしれない。
『どうして水道が止まった廃校舎の洗面台に水が貯まっているの?』
一人のリスナーが、そんなコメントを書いていたのだ。
もう、既におかしい。何かが狂い始めている。
秀一が信じたくなくとも事実そこに、迫っている。
人ならざる存在、幽霊が。
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