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第11話

ーー幽霊だって? あっちも幽霊、こっちも幽霊? 助けを求めて決死の覚悟で来たのに? 秀一は、騙されたような気分になり叫んだ。 「助けてくれると思ったのに、人間だと思ったのにーーお前あの化け物の仲間かッ! 誘い出してどうする気だ。あ、あの化け物みたいに僕を捕まえて、殺す気か!」 大声を張り上げながら足は震えている。狼に狙われた子ウサギが精一杯耳を立てて身体を大きくするようなものだ。 怖い。さっきは奮い立った秀一だが、右も左も幽霊なんて聞いてないぞ!一体ならいいというわけでもないが。 ところが鏡の中のイケメンは、困ったような顔つきで言った。 『……俺は君に危害を加えるつもりはない』 「えーー」 男は秀一を踊り場に呼び出した。つまり、誘い出した。 秀一を殺すために違いない。 そう思ったのだが…。 『君を待っていたというのは、普通そういう意味では言わないだろう。あんなかっこつけたポーズまでして』 「自覚あるんだ」 案外間抜けなイケメン? いやまて、まず霊だ。 『波長の合う人間を待っていたんだ。それは殺すためじゃない』 「じゃあ、何のために? おっ…お前の目的はなんだ。アレより先に僕を喰うことか?」 イメージで答えた。そうだ、あの女はきっと秀一を食べようとしたのだ! 『はは、面白い事を言うな、君は。 そう、女の幽霊は君を食べようとしたーー長い髪の毛を分けると頭の後ろにでかい口があって、そこに君をまるごと放り込んでバリバリムシャムシャ』 「そんな妖怪、昔話にいたな……子供の頃に聞いたことがあるぞ。お握りと味噌汁沢山作って食べるやつ」 『それそれ。妖怪ニギリスキー』 「いやそんな可愛い名前じゃない」 はっとする。何故秀一は鏡の中の男とこんな呑気に話しているのだ。 じり、と後退りする秀一。 イケメンも馬鹿なやり取りに気付いたらしく調子を戻す。 『ーー協力して欲しいんだ。 彼女をあるべき姿に戻したい』 鏡の中の男の眼差しは真っ直ぐだ。 「仲間だから?」 『その、外国人を見たら全員同じ国の人みたいな扱いやめてくれないか? 外国人が全員寿司天婦羅フジヤマ鷹なすびゲイシャが好きな訳じゃないぞ?』 「鷹となすびはおめでたいだけでしょ」 『ツッコミがうまいな、君』 そんなの褒められても。しかし、普段褒められる事が極端に少ない秀一は鼻の頭を赤くする。 何故こうすぐ掛け合い漫才になるのか? 得体の知れない霊と。 波長があうのはこういう部分もか? 男は尤もらしい咳払いをした。 『改めて話そう。俺は、君の味方だ。君を助けたい。一緒に力を合わせて、君が化け物と呼ぶ存在をどうにかしたいんだよ。君は中学生か高校生、まだ子供だろ?』 背が低いから中学生に見えたのだろうか?ムスッとして返す。 「高校二年だよ!」 『そりゃすまなかった。ともかく、子供を独りで危険な目に合わせたくない。君に襲い掛かってきた彼女は、生前の知り合いだ。俺の手でなんとかしたいんだ』 「知り合い?」 不信の目付きでじとーと男を見る秀一。友達がいないので仲間とかそういう類いには敏感に反応する。 『……生前のな。くどいようだが幽霊仲間じゃない。 今の彼女は恐らく、もう別物なんだよ。 兎に角、俺に協力をしてくれ。 君だって彼女をどうにかしたいんだろ? だから独りで逃げなかったんだろ?』 「ーーそれは」 死んでもいいと思ったからだとは、秀一は言えなかった。

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